白衣の名探偵 -モロー邸の人狼-
ボツになったプロローグ
ニンテンドー大学。
この国でその名を知らない者はいない。
世界中から学生を受け入れ、数々の優れた知識人を輩出する知の殿堂。
首都圏郊外に広い土地を構え、緑に囲まれた市民の憩いの場。
トップレベルの研究施設が備わった、研究者達の楽園。
ニンテンドー大の名は実に多くの意味を持っている。
先人の知を尊び、若者の冒険を励ますこの大学に、昨年新たな施設が加わった。
現在、ニンテンドー大を上空から俯瞰すると、まず中央に建つ円形のビルが目に入る。
その建物を軸にして様々な長さの通路が放射状に延び、個性的な建物と繋がっている。
外縁部の建物群は、理学部や法学部といった既存の施設。
そして、それらをつなぐ車軸となったビルディングこそ、新たに建てられた『総合研究棟』である。
この総合研究棟はもちろん、単に物理的な利便のために建てられたわけではない。
発展と成長に伴っていささか細分化し、近視的になっていた諸学問を再び交通させ、
そこから全く新しい知を得ようという、学長じきじきに指揮を執った新プロジェクトなのである。
中央をややずれたところで十字に切られた円。
"交わり"を意味するシンボルを掲げるこの研究棟は、早くも2、3の斬新な論文を生み出し、
独創的な研究の場となり、多くの学生に研究職への憧れを抱かせた。
博士号を取った者にとっても、ここで働くことは名誉なことである…はずなのだが。
午後の陽光が差しこむ、総合研究棟。
そこここの研究室からあふれる静かな熱気に満ちた廊下を、1人の男が大股に歩いていた。
一見学生と見まごうほど若々しく無鉄砲な顔をしたこの白衣の学者の名は、Dr.マリオ。
30代にして今年春からニンテンドー大に赴任した、医学部の若手教授である。
近頃はそれに加えて、"白衣の名探偵"という肩書きが加わった。
しかし今その顔にあるのは誇りではなく、苛立ちと怒り。