ある青き英雄の災難
作:290さん
――――前置き――――
・舞台設定は「X」です。
・下ネタ注意です。
・そんなに過激ではないです。
見る人が見れば耳垢程度のものでしょうが、一応注意。
・下ネタがメインではありません(笑)
――――――――――――
……
………
……………
……………………
眼下一面に広がるのは人と人、民家の屋根と屋根とがひしめき合う城下町。
石畳が家々の間を縫い、荷車や馬車の音が響く。
行き交う人々のざわめきがこの国の活気を表しているようだ。
「ここは………
ここは、どこ、だった……?」
蒼髪の下から覗く瞳で、活気溢れる街の様子を眺めながらそうこぼしたのは
グレイル傭兵団の団長、そしてクリミア王国の将軍、アイク。
__見覚えはある、が…
そういえば、俺はどこか遠い世界で
色んな種族のものたちと
乱闘をしていたんじゃなかったか…
目の前に広がる光景と、直近の記憶に戸惑いを覚えつつ、頭を整理していく。
「…そうだ
ここはクリミアの王宮だ…」
アイクが今立っているのは、王女エリンシアを長とする、クリミア王国の王宮だった。
祖国を取り戻し、歓喜に沸く民衆たちの前でエリンシアと共に手を振ったあのバルコニー。
そこにたたずみ、一人城下町を眺めていたのだ。
「しかしなぜ俺はこんな所に…
それに、なんだか体中が重いような…」
どこか地に足がつかないような様子で、アイクは手すりを頼りに
ゆっくり王宮の中へと足を運び、なんとか城内へと戻る。
体が、重い…
どこか人目の付かない場所で少し休もうと、おもむろに進める
その一歩一歩が、とても重く感じる。
と、そこへ突如
大きな眠気にも似た目眩が襲った。
「…くっ!」
このままでは 倒れてしまう――
アイクは思わず何か捕まるものを探るよう手を伸ばしたが、それはむなしく空を切り
そのまま前のめりに床へと倒れ込んでしまった。
ドサリ
床へうつぶせに寝転がるような形となったアイクは、意識こそ失わなかったものの
ひどい眠気のせいか目を開けられず、起き上がろうにもまるで全身が金縛りにでも
あったかのように、体を動かすことができなくなっていた。
「くそ、俺の体はどうなって…」
ふに
身動きが取れず、少しでも体を動かそうとするアイクは
自分の左手に、なんとも表現しがたい感触があることに気づいた。
ふに ふに
――何だコレ
ふにふにふに
やわらかくて、
それにちょっとあったかい…
アイクは自分の左手が触っているものの正体を見ようとするが
目におもりが付いているかのごとく、全く目を開けられない。
それでも気をしっかり持ち、重いまぶたをなんとか、なんとか開く。
そして、その眼前に現れたのは
「…エリンシア…?」
アイクの横に、女性が同じように床へ横たわっている。
顔を背けてはいるが、それは間違いなく王女エリンシアだった。
自分はうつぶせに、エリンシアは仰向けに倒れている。
その状況は理解できたが、なぜこんなことになっているのか
どういうわけか、そのことには頭が回らなかった。
「ひどい…アイク様」
倒れ込んでいるとはいえ、久しぶりに再会した彼女から発せられたのは、思いもよらぬ一言。
その言葉からは、明らかに彼女の悲壮が伝わる。
――ひどい?
もしや自分が倒れた瞬間
いつの間にか自分に近づいていたエリンシアを巻き込んで
一緒に倒れ込んでしまったのか?
そんな事を思いつつ、アイクは改めてゆっくりと目を自分の左手に向けた。
一気に血の気が引く。
あろうことか、アイクの左手は
エリンシアの胸に…なんとも絶妙な位置に乗せられていたのだ。
「!!…………す、すまない!」
叫ぶと同時に、アイクは手を振り払おうとするが、その手は全くいう事をきかない。
それどころか全身鉛が入ったかのように重く、わずかな身動きすらとれない。
「は、はやく…起きて、ください…」
エリンシアの声が途切れ途切れになって聞こえる。
涙声のようでもある。
「お、俺も(起きようとしているのだが、動けないんだ…)」
…!
ついに声まで出なくなってしまった。
「どうしたのですか、アイク様…
こんな所、ミストちゃんが見たら悲しみますよ…」
わかってはいる、わかってはいる、が…
体が、いうことをきかない―――!
そうやって力を入れれば入れるほど、どんどん深みにはまっていく。
動け、動け俺の体!
「アイク様…」
「す(まない…体がいうことを)き(かないん)だ…」
「…え…?」
「…?」
「……!」
少し間を置き、自分が何を言ったのか理解したアイク。
「(違う違う違う!)」
「え、あ、アイク、さま…?」
「(よしんばそうだったとしてもこれは最悪だ!!)」
おそらく人生で一番焦っている瞬間であろうアイクは、全身の力をふりしぼり立ち上がろうとするが
そうすれば、否が応でも自然、左手に力が入る。
「…やめてください!」
ぼこっ!!
アイクの後頭部に、棒のようなものでおもいきり殴られたような衝撃が走る。
殴られたのか
まあ、当然だろう
誰が見ても俺が悪い
もう誰でもいい
できればセネリオかキルロイか…
いや贅沢は言わないから
とにかく俺をエリンシアから引きはがしてくれ
この状況から
はやく
逃げ…
---------
ズキン!
激しい後頭部の痛みで目を覚ます。
「、つうっ…」
うつぶせに倒れたアイクが意識を取り戻したのは
緑深い、森の中だった。
木漏れ日が点々と身体に射し、ひんやりとした風が髪を揺らす。
うつぶせになった顔には、まだ散るような色でもなさそうな青い葉が乗っかり
頬の下には柔らかな草がひしめいている。
「な、なんで俺はこんな所に…」
アイクは後頭部を右手で押さえながら、ゆっくりと身を起こした。
ふに
「うわあっ!?」
既視感のある感触が左手を襲い、反射的にその物体からはねのける。
「な、なんだ、なんだ…」
アイクは自分の手が触れていたものを恐る恐る確認すると
そこにはピンク玉…もといカービィが目を回して転がっていた。
どうやら気を失っている間、アイクはカービィの手(?)をしっかり握っていたらしい。
その状況を理解すると、自分が先ほどまで見ていた夢を糸をたどるように思い出し
自己嫌悪で大きなため息をついた。
――そうか、それであんな夢を…
しかし俺はなんてヤツだ。よりによってエリンシアの…っていやいや!
アイクはぶんぶんと頭を振り、深く思い出すのを強制終了させる。
ズキン!
「っ、痛…っ。
さっきからなんでこんなに頭が痛いんだ…
というか、なんで俺はこんな所に居るんだ?」
痛む後頭部を右手で押さえながらキョロキョロと周りを見回すと、一面、森。
うっそうと茂った木々が広がっている。
そして、さっきまで自分の頭があった横脇に、太めの枝が落ちているのが目に入った。
どうやら気を失っている間、この枝が頭に落ちて来たらしい。
「よりによって頭に直撃するとはな…」
そう言いながらアイクはその枝を拾い上げた。
そのまま遠くへ投げてやろうかと思ったが、なんとなく枝の断面を確認してみると、その折れ口はまだ若く
枯れて落ちたわけではないことが分かった。
何かの力によって、へし折られたのか――
その枝を眺めつつ、アイクはこれまでの出来事をゆっくりと思い起こしてみる。
「確か、俺はさっきまで試合をしていたはずだ…
そうだ、俺はカービィとチームを組んで、そして対戦相手はファルコとメタナイト…うむ、覚えているぞ」
徐々に直前までの記憶を思い出して行くアイク。
――ステージは「大滝登り」。
ジャングルの滝をバックに、迫ってくる地から逃れ、狭い足場と罠をすり抜けながら
相手を攻撃しなければならない、なかなか手強いステージ。
吹っ飛ばし、吹っ飛ばされつつ、俺たちは順調に勝ち星を増やしていった。
それで終了時間が迫った頃、ステージがスピードアップして…
そうだ。
俺たちはファルコとメタナイトに、上下から挟み撃ちのような形になって、それらをかわしながら上昇し…
カービィは下から迫る足場に焦ったのか、後ろの針山に気づかずに吹っ飛んだんだ。
――が。
いつまでたってもカービィが戻ってこない。
普段なら、吹っ飛ばされて10秒と経たないうちに舞台へ転送されるはずなのに。
実際、その少し前に吹っ飛んだファルコもすぐにステージへ戻って来ていた。
そのことに気づいたのは、俺が最初だったと思う。
なにせ一人で二人を相手にしないとならないから、相方の不在が気にならないわけはない。
俺がそのことに疑問を持ち始めて数秒後、メタナイトも気づいたらしく、遅れてファルコも
周囲を気にし始めた。
しかし双方、攻撃の手を緩めるわけにもいかない。
カービィも(まぁまず無いだろうが)もしかしたら反撃の隙をうかがいつつ、隠れているのかもしれない。
こちらも隙を見せればあっという間にやられてしまう。
それでもやはり俺は気にしてたんだろうな、カービィのことを。
うっかり、立ってしまったんだ…ギミック付きの床に。
そこを見逃さず、ファルコがブラスターで作動スイッチを打ち抜いた。
床が抜け、俺は見事に針山の上に落ちると、カービィと同じ方向へと吹っ飛んで行ってしまった。
――そこで記憶が途切れている。
おかしい。
いつもなら吹っ飛ばされたファイターは瞬時にダメージが回復され、着衣もきれいに元通りになり
ステージへと戻される
…はずなのに。
俺もカービィも吹っ飛ばされたにもかかわらず、ダメージの回復もなければ衣服もぼろぼろのまま。
ステージに戻るどころか、来たこともない森の中でさっきまで気を失っていた。
…
これは何か…
そういう、ステージへ「復帰」させるための装置が壊れてしまったのだろうか。
確かマリオが言っていた。
場外へ吹っ飛ばされたり自爆したりした際、ファイターは自動的に「回収」され、回復等をした後
再びステージへ送られる。
だからそのまま落下して地面に激突するわけではないし、どこか遠くへ飛んで行くわけでもない。
そういう「システム」になっているのだと。
おそらく、カービィがふっとばされた時かその数分前に、その「システム」とやらが壊れたのだろう。
そうだな。そう考えれば合点が行く。
だからこうやって俺たちは吹っ飛ばされたあと転送されず、森の中に放り出されたんだ。
まぁ、たとえ高い所から落下したり戦闘機に激突されたとしても、この世界では骨折等の大けがをしたり
大出血をしたり、死亡したりする事はないのらしい。「痛み」はあるが。
今回、そっちの「システム」は壊れなかったのだろう。
それまで壊れていたら、カービィはともかく俺は即死だっただろうな。
改めて、握りしめている枝を見つめる。
――そうか、俺たちがここへ落ちてくるときに、木の枝を巻き込んだんだな。
よく見れば、そのへんにまだ青い葉をつけた細かな枝が散らばっている。
で、皮一枚で幹と繋がっていたこの枝も、重みに耐えられず俺の頭に落ちてきた、と…
まぁ、それはいいとして、どれくらい気を失っていたのだろうか。
すでに日は傾き、気温も試合時より低くなっている。
はやくステージへ戻らなければ、最悪野宿だ。
…まぁ、メタナイトもファルコも、俺たちが戻ってこない事を不審に思わないわけはない。
探しにくるなり、他のファイター達に報告するなりしているはずだ。
それならここからは動かない方がいいか…
俺たちが飛んで行った方向は分かっているのだから、すでにこっちへ向かっているかもしれない。
下手に動けばいつまでも合流できないだろう。
あれこれ考えを巡らせ、これからの行動を慎重に決めて行くアイク。
しばらく心を静かにして、静かに息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。
「よし…狼煙を上げるか」
アイクは、おそらく自分たちを探しているであろう仲間たちにこの落下位置を知らせるため、
狼煙を上げることにした。
そうと決めると、とりあえず目に見える範囲をキョロキョロと見渡してみる。
しかし、この辺りには火がすぐにつきそうな枯れ木等は見当たらない。
あまりここを離れるのはよくないが、しばらく歩いてみて、焚き木になりそうな木を集めるしかなさそうだ。
パッパッ、と体の前面に張り付いた葉や草を叩き落とし、ぽきぽきと体を鳴らすと、アイクは単身歩き出した。
…が、すぐにカービィの事を思い出し、振り返る。
そこには平和そうに寝息を立てるピンクボールひとつ。
「まだのびてるようだな…寝てるのか?」
しゃがみ込み、ぷにぷにとカービィのほっぺをつついてみる。
ふに
「…」zzz
ふに ふに
「……」zzz
ふにふにふに
「………ぽにょお………」zzz
いかん
こんな事をしている場合ではない
ふと我に返るアイク。
――しかし焚き木を探しに行っている間、目が覚めないとも限らないな。
おそらく腹も減っているだろうから、食べ物を求めて単身動き回るかもしれない。
「…仕方ないな」
バサッ
アイクはマントを外し、器用に横長に折りたたむとその上にカービィを乗せた。
そしてマントでカービィを包み、そのまま背負うと、おんぶ紐になるように自分の胴回りに
ぐるぐるとマントをまきつけ、端と端を結んだ。
「これでよし」
アイクはカービィを背負うと、背中を軽く揺らして位置を調整し、再び森の中を歩き出した。
◆
「ふむ…なかなか枯れ木が無いものだな」
カービィを背に、せっせと小枝や枯れ葉を集めるアイク。
季節柄なのか、ここの植物群の特性なのか、なかなかすぐに使えそうな小枝が見つからないが
それでもなんとか焚き木になりそうなものをかき集めた。
「さて、こんなものか」
アイクは焚き木を小脇に抱えると、空を見上げた。
といってもこの森は木が生い茂り、空は枝葉の間から少し見え隠れする程度だ。
しかしここから見える限り、日が暮れるのはそう先の事ではないことは分かる。
「狼煙を上げるなら早めにしないとな」
視線を森に戻すと、踵を返して落下点へと早足で向かった。
もぞ
「…ん?」
背中にいるカービィが、わずかに動いた。
アイクは足を止め、自分の背中に視線を向ける。
「ぽよ…?」
寝惚け眼をこすりながら、キョロキョロと辺りを見回すカービィ。
「目が覚めたか」
「ぽよ」
アイクに背負われている事を理解したカービィは、アイクの肩にきゅっと捕まり頷いた。
「俺たちはどうやら、さっきの試合で吹っ飛んだ時、森の中に放り出されたらしい」
「ぽよ…」
「おそらく、今頃メタナイト達が俺たちを捜しているだろう。
俺たちの位置を知らせるために、狼煙を上げるぞ」
「ぽよ♪ぽよ♪」
アイクの言っている事を理解しているのかしてないのか、その顔からは計り知れないが
カービィは嬉しそうに相づちを打った。
ただ単に、おんぶされている事を喜んでいるようでもあるが。
そんなカービィを尻目に、アイクは再び落下地点へと急いだ。
「しかし、ひどい悪路だな…歩きにくくて仕方ない」
ここへ来るまでもそうであったが、この森はやたら足元が湿っていて、しばしば泥などに足を取られる。
樹木の根も所々張り出しており、油断していると躓いてしまいそうになる。
それでもアイクは懸命に草木をかき分け、自分の足跡や目印にしてきた草花を頼りに進むうち
見覚えのある地形が何十mか先に見えてきた。
「ぽ、ぽよっ」
じたばた じたばた
目的地がもう目の前へと近づいてきたその時
アイクの背でカービィが突然手足をせわしなく動かしはじめた。
「な、ど、どうした?カービィ、降りたいのか?」
「ぽよー!」
アイクの問いにこたえもせず、カービィはもがくのにまかせて無理矢理マントをほどくと
背中からするりと抜け出した。
巻き付けるものがなくなったマントはアイクの胴をすり抜け、一気に足下へ落ちる。
そのマントと共に地面へ降りたカービィは、ものすごい勢いで一方向を目指し、猛ダッシュで
行ってしまった。
「おい待てカービィ! どこへ行く!」
その叫びはこだまにもならず、むなしく森へ消え、
ピンク色の背中は振り返る事無く茂みへと消えていった。
「何を考えているんだカービィ…!」
小枝の束を抱えたまま、走り去った方向を見据えて困惑するアイク。
「……いや、何も考えてないのか……」
そうつぶやくと、長く太いため息をついた。
追いかけようかとも思ったが、下手に走り回れば2人とも遭難してしまうかもしれない。
「…」
少し考えを落ち着かせ、顔を上げた。
「とりあえず俺だけでも先に救出組と合流しよう。カービィの捜索はその後だな…」
アイクは渋い顔で落ちたマントを拾い上げて軽くはたくと、再び悪路を進んだ。
◆
「さて…こんなもんか」
アイクは落下地点に戻ると、周りに引火しないよう十分配慮し、集めた枯れ葉を積み上げて狼煙の準備をした。
とにかく明るいうちに狼煙を上げておきたい。
暗くなれば細い煙はより見えにくくなり、発見も遅れてしまう。
「さて」
腰の神剣ラグネルを抜き、構える。
「ステージ外でも炎が出るといいんだが……ぬぅん!」
ザンッ!
大地に突き立てられた神剣ラグネルから炎が吹き出し、積まれた落ち葉に
しっかりと火が燃え移った。
「よし、ひとまず成功だな」
アイクは火種に小枝を乗せながら、少しずつ火を大きくしていく。
枯れ葉、小枝、そして太い枝を乗せていき、小さな焚き火は本格的に炎を上げだした。
「うまく上空まで煙が上ればいいが…」
思わず空を見上げるが、そこには相変わらず、暗く枝葉が広がるばかりだった。
それでもわずかな望みをかけ、アイクは火を絶やさぬよう少しずつ薪をくべていった。
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------
---------
パチ…パチ…
どこからともなく響いてくる鳥のさえずり、ずっと離れた所から聞こえる沢の流れ、
風に揺られて枝葉がこすれる音などにまじり、音を上げて燃える小さな炎。
どこまで続いているのかも分からぬだだっ広い森の中に一人。
いつしか、目の前の火だけが自分の味方のような気がしてくる。
「…はあ」
パチッ、パッ、パチッ
肉とか焼きたい…
燃え盛る火を見つめていると、少し前にメンバー達と開催したBBQ大会を思い出す。
あのときは火の上で、肉や肉や肉を焼いた。
今、火の上には、何も無い。ただ煙を出すだけの作業――
夕食の時間は近い。
アイクは知らぬふりを決め込もうとしていたが、確実に空腹はやってくる。
さっきまで森の中を探索していたこともあり、そのときは間もなく訪れるだろう。
もちろん、こんなところで肉など望むべくも無い。
それが分かりきっているからこそ、アイクの空腹へのカウントダウンは、より加速していく。
…きっと助けはすぐにくる。
なにしろ機転が利いて、行動力のある奴ばかりだ。
それまで、しばらくの我慢だ。
そう自分に言い聞かせ、なるべく体力を消費しないよう膝を抱えて目を閉じた。
パチ…パチッ!
次第に辺りは暗さを増してゆき、あたりは静けさを帯びていく。
その中でより大きく響く、枝のはじける音。
枝…
弾ける…
待っている間も何か身体を動かして気を紛らわしたいのは山々だが
余計な体力を使いたくはない。
助けがくるのが遅くなる可能性も無いわけではない。
枝…
串…
肉…
カービィがいれば、気もまぎれただろう。
話し相手…になるかどうかは怪しいが、それでもずいぶん違ったはずだ。
まったく、どこへ行ってしまったんだ…
パチ ぽよ… バチッぽよ… パチ…
幻聴か
カービィの足音が火の音に混じって聞こえるような
がさっ!
「…っ!」
アイクの背後から突然の物音。
思わず剣の柄を握り、音のした方へと身構える。
その瞬間、草むらから飛び出して来たのは
黄色い塊。
「……!………?
…バナナ…!?」
ほどよく色づいたバナナ。
美味しそうなバナナの山が、草むらから顔を出している。
「? ? ?」
かさかさ
「ぽよ」
「…………………
カ、カービィ、か…」
バナナの山の下から現れたのは、まんまるピンクのカービィだった。
彼の顔を確認すると、アイクは脱力したように剣の柄から手を離した。
「ぽよ、ぽよう!」
どさどさっ
アイクの言葉に応えるようにカービィは身体を傾け、自分の頭にのっけていた
大量のバナナを地面に置いた。
「どうしたんだこれは…
まさか、森の中で見つけてきたのか?」
「ぽよ!」
嬉しそうに笑顔で頷くカービィ。
「…そういえばあの時対戦してたステージがジャングルだったな。
飛ばされたここもまたジャングル、というわけか。それでバナナ…」
バナナの山を見つめながらそんなことをつぶやくアイクのスボンの裾を
カービィがくいくいと引っ張りつつ、反対の手でバナナに手を向けた。
「俺に、と言ってるのか?」
「ぽよ」コクリ
カービィは満面の笑みでそう頷くと、ひょいとバナナを2、3本失敬し、皮ごと口の中へと放り込んだ。
「そうか、ありがとうな」
「ぽよ♪」モグモグ
そんなカービィの様子を眺めながら、アイクはふむと顎に手をやった。
――この状況から察するに、おそらくあの時、カービィにはバナナの匂いがしたんだな。
俺は全く気づかなかったが…それで無我夢中で匂いのする方に走って行ったのか。
「…それにしても、よくここが分かったな。カービィ」
「ぽよ、ぽよ」
「ん?」
「ぽよーぽよ」クイクイ
カービィはアイクの起こした焚き火を指(?)差した。
「ああ、焚き火が目印になったのか」
残念ながら未だ助けは来ないが、火をおこしたことで
こうしてカービィと合流できたことに一安心するアイク。
「これも、まったくの無駄ではなかったということか」
焚き火を見つめ、ほうっと一息つくと、その場にどさりと座り込んだ。
「じゃあ、ありがたくいただくぞ」
「ぽーよ♪」
アイクは自分とカービィの間に山積みにされているバナナに手を伸ばして
一本もぎ取り、ゆっくり皮を剥くと口に放り込んだ。
「あまりこういうものは食べないが、改めて食べてみるとうまいな」
そうしてアイクが一本食べ終わるうちに、カービィはすでに5本ほど平らげていた。
――いつものカービィらしいな。
しかし…
アイクは何か違和感のようなものを感じた。
確かにいつものカービィ同様、人の倍以上のスピードで食べてはいるが
どうもいつもとは違う。勢いがない。
何より吸い込みを使わずに一本一本食べているのが、もうおかしい。
――絶対にカービィは空腹だったはずだ。
一気に吸い込まないどころか俺が食べるのを黙って見ているとは…
もしや、すでにどこかで食べてきたのか?
アイクは2本目に手を伸ばしつつ、カービィの様子をちら見する。
やはり、遠慮がちにバナナへ手を伸ばしているようにみえる。
そうか、きっとどこかですでに食べてきたんだな。
そして、腹一杯になって我に返ったところで俺のことを思い出し
”おみやげ”を持ってここへ帰って来た、というところか…
「どうしたカービィ。いつもの勢いがないじゃないか」
バナナをむきつつ、アイクはちょっぴり意地悪な質問をしてみる。
「ぽ、ぽよっ…」
そう言われて少々焦りを見せるカービィ。
「ぽよぉ…」
カービィは何かをぐっとこらえたような表情をすると、思い切ったように
バナナの束をずずーっとアイクの方に寄せた。
「どうしたんだ。俺に全部くれるのか?」
「ぽ ぽ、ぽよ」
言葉は分からないが、その表情から明らかに強がりを言っていることはわかる。
どうやらアイクの”推理”は当たっていたようだ。
しかしカービィのその顔を見て、ちょっと悪いことを言ったなと思う。
「まぁ、気持ちはありがたいが、取ってきたのはお前なんだから。
一緒に食べようじゃないか」
「ぽ…ぽよ!?」
「ああ」
この時ばかりはアイクにもカービィの「言葉」が通じたのか、素で頷いた。
カービィは、あからさまに嬉しそうな顔をみせると、再びバナナをひょいひょい口へ運びだした。
そんなカービィを見てふっと微笑むと、アイクも黙ってもう一本もぎ取った。
「それにしてもよくこんなに実っていたもんだな」
「ぽよ(モグモグ)ぽよ(モグモグ)」
"おゆるし"が出て、夢中で手と口を動かすカービィ。
聞いているのか聞いていないのか。
「まぁ…いいか」
あまり深く考えないことにしたアイクは黄色く色づいた皮を剥き、もう一本頬張る。
小さな焚き火に照らされる二人と、山積みのバナナ。
黄色く盛り上がったその山を、ふたり(主にカービィ)は着々と減らしていった。
◆
「…こないな」
「ぽよ」
あたりはすっかり暗くなり、鳥の声も鳴りを潜めた。
しかし助けが来る気配は、無い。
「すぐに助けが来ると思ったんだがな…見通しが甘かったか」
あんなにたくさんあったバナナも、すっかり小盛りになってしまった。
アイクは何気なく、自分の足元を見てみる。
そこには10本ほどのバナナの皮。
そして隣に座るカービィの足元には…何も残っていない。
「今更だがカービィ。
お前、バナナの皮は剥かないのか?」
「ぽよ…?」
片手にバナナを持ち、ぴたりと動きを止めるカービィ。
「ほら、こんなふうに」
アイクは1本バナナを取り、するすると剥いてみせた。
「ぽよぉ…」
それを見たカービィは不慣れそうな手つきでバナナのヘタを持ち、
見よう見まねで剥いてみた。
ぐにゃぁ
綺麗に、という訳にはいかなかったが、なんとなく皮が少し取れ
中の白い実が顔を見せた。
「そうだ、その黄色い皮をぜんぶ取って…」
「ぽよ、ぽよ」
アイクのアドバイスを受けながら、不器用ながらも皮を全部取り除く。
「ぽよー!」
カービィは綺麗にむけたバナナをアイクに向けると、そのままぽいっと口に放り込んだ。
「ぽよ」モグモグ
「どうだ、そのほうがうまいだろう?」
「ぽよ~」∩^○^∩
その声と表情から、かなり美味しかったであろうことが伺える。
「そんなに気に入ったのか。ほら、これも食べるか?」
アイクは自分が剥いてみせたバナナをカービィに差し出した
…瞬間、バナナは姿を消し、アイクの手には皮のみが残された。
すっかり皮剥きバナナが気に入ったらしく、カービィはすぐさま次に手を伸ばす。
そして、相変わらず不器用ではあるが、皮を剥ぎ取り、おいしい中身だけを
美味しそうに口に入れた。
「ぽよ、ぽよ」
カービィの足元に、みるみるうちに増えていくバナナの皮。
そして刻々と過ぎていく時間。
アイクは一抹の不安を覚え始めた。
木の爆ぜる音と、カービィの咀嚼音の他に聞こえるものといえば
虫の声と、鳥の羽ばたき音くらい。
救助がくる気配は――全く感じられない。
「この程度の煙では上空まで届かないのか…?」
目の前の焚き火を見つめつつ、アイクは眉をひそめた。
……パチ………パチン
そんなアイクを尻目に、カービィはうとうとと目をこすりだした。
「ぽよ…」
お腹もいっぱいになって眠くなったのだろうか。
アイクの方にころころと体を寄せると、そのままアイクにもたれかかり、寝息をたてだした。
「ふっ…のんきなやつだ」
ずっと元気そうにみえてはいたが、彼なりに疲れていたんだろう。
アイクは苦笑いを浮かべながら、カービィの肩(であろう部位)を優しく叩いた。
ふに
「……」
そういえば、こんなふうにカービィに触れるのは、今日が初めてかもしれない。
普段は乱闘で殴ったり蹴ったりだからな。
ふに ふに
癖になってしまいそうな、なんともいえない感触に
無意識に手が動くアイク。
なんだろうな、これは…
クッション…でもないし、餅というやつでもないし
ポケモントレーナーからもらった「いかりまんじゅう」でもない…
うーむ例えるなら…
そんなことを考え巡らせるうち、アイクは不吉な何かを思い出し、ゆっくりと手を離した。
「はぁー…」
意味深なため息がもれる。
当分、エリンシアの顔はまともに見れそうにないな…
まぁ「しょうがつやすみ」とやらはまだ先だから、クリミアに里帰りする頃には忘れるだろう。
ヒュウゥゥ…
夜の森に、一筋の風が吹く。
「…少し冷え込んできたな」
アイクは自分のマントの端をカービィにかけてやる。
まだ昼間は暑いが、夜になれば半袖では少々肌寒くなる季節だ。
それにしても、今日はやたら冷え込んでいるような気がする。
アイクは焚き火に枝を足していった。
と、ここでふと気づく。
集めた小枝が底をつきはじめたのだ。
せっかく起こした火が、燃料切れで消えてしまうのも時間の問題だ。
「まずいな」
自分たちの位置を知らせるための焚き火だが、このまま野宿になったとしても
火を絶やすのはまずい。
まだ火が残っているうちに薪を探しに行こうと立ち上がろうとしたが
傍らには自分に全体重を預け、幸せそうに眠るカービィ。
「カービィには悪いが、しばらく地べたで寝てもらうしかないか」
アイクはカービィをそっと自分の体から離そうと、体をゆっくり横にひねった。
と、ふと、視野に入ってきたものがあった。
自分の頭に直撃した、あの枝だ。
「あれは… そうだ!」
アイクはカービィを支えている足を気にしながら体を伸ばし、その枝を拾い上げた。
「生木なら煙がもっと出るはずだ…やってみるか」
自分たちが森のなかへ落ちてきた時、巻き込まれて折れた枝。
その枝はまだ水分を多く含み、燃やせば枯れ枝よりもたくさんの煙が出るに違いない。
アイクは、そのままでは大きすぎる枝を燃えるくらいのサイズに折ると
少しずつ焚き火にくべていった。
パチ……パチ…
やはり水分が多いためか、なかなか引火しない。
パチ……パチ…
パチン、パチンッ!…
やがて、大きく枝が爆ぜる音がし、次第に大量の煙と火の粉をあげだした。
「よし…!これなら気づくかもしれない」
アイクは少しずつ、少しずつ小さな切れ端を足していく。
それに合わせて、煙はゆっくりとその量を増していった。
「いいぞ…たしか他にも折れた枝が落ちてたはずだ」
アイクはそっとカービィを地面に寝かせると、マントを外してかけてやった。
そしてゆっくりと立ち上がると、目を凝らして水分の多そうな枝をかき集めた。
パチッ!パチン!…
「ぽよ…」
激しく枝の弾ける音に、カービィは目を覚ました。
そこには、生木を少しずつ火にくべるアイクの姿。
焚き火からは、先ほどとは比べ物にならないほど大量の煙が出ている。
「カービィ、起きたか。
これを見ろ。もしかしたらこれで俺たちを見つけてもらえるかもしれないぞ」
「ぽよ?」
「ほら、さっきよりもたくさん煙が出ているだろう?
ずっと乾いた枝を燃やしていたが、今はこんなふうにまだ乾いていない、切ったばかりの枝をもやしているんだ。
これだと、乾いた枝よりも煙がたくさん出るからな」
アイクは2つの枝をカービィの目の前に並べて、丁寧に説明してやった。
「ぽよ…!」
それを聞いたカービィは、マントから這い出て起き上がるとプルプルッと頭を振った。
目をパッチリさせ、そのあたりをきょろきょろと見渡してみる。
自分も乾いていない枝を探そうと思ったのだ。
ぽよ ぽよ
と、目に入ったのは、自分の足元に落ちている、大量のバナナの皮。
「ぽよっ!」ピカーン
何かを思いついたカービィは、迷うことなくバナナの皮を寄せ集めた。
そして程よく山になったそれを両手で拾い上げると、ゆっくり焚き火へと向かった。
生木を片手に火の様子を見つめていたアイクは、カービィの行動をちらり、と見て再び火へ視線を戻した
…が、次の瞬間ものすごい勢いでカービィを二度見し、慌てて右手をカービィに伸ばす。
「…!っ、カービィダメだ!そんなに、一度に乗せたら…!」
「ぽよ♪」
ぼそんっ
時すでに遅し。
大量のバナナの皮は、一気に火の上へ落とされた。
ほんの一瞬だけ火は眩しい光を放ち、円状に火の粉と灰が巻き上げられると
あたりは暗闇に包まれた。
「あああ…」
水分をたっぷり含んだバナナの皮は、焚き火をまんべんなく包んで
外気を遮断し、その熱と光を奪った。
がくうっ
「なんてこった…」
アイクはその場で四つん這いになって伏した。
「ぽよぉ…?」
良かれと思ってバナナの皮を焚き火にくべた(かぶせた)カービィは
火が消えてしまった現状と、アイクの心情をよく理解できずに首を傾げた。
「………」
突っ伏したままのアイク。
落ち着きを取り戻し、考えを整理しようと、じっとその姿勢のまま
頭をフル回転させる。
…
……ガサ……ッ
サッ……バサッ……
その時。
焚き火の音も消え、しんと静まり返った森の中で
真っ黒の地面とにらめっこするアイクの耳に
羽ばたきのような音が聞こえた。
「……」
…バサッ
バサ………バサッ!
いよいよその音が大きくなり、アイクとカービィはほぼ同時に頭を上げた。
空を見上げ、そこに見えたのは――
黒く、巨大な翼をもった大きな影。
それは自分たちを目指して下降してきているのは明らかだった。
そうはっきり認識した時には、影はもう手を伸ばせば届くくらいの距離に迫っており――!
「ぽよ…っ!」
「…っ!」
アイクは瞬時に身構えると、それを掴み、思い切り地面へと叩き伏せた。
ガッ! ドサッ!!
「ぐあっ!」
叩きつけられた影が、たまらず声を上げる。
ふに
「………!
カービィ!?」
アイクは自分がひっつかんだ相手の感触から、思わずカービィの名を呼ぶと、
手を離してその黒い影に目を凝らした。
「…アイク、私だ…」
「その声…メタナイトか!」
「ぽよ!?」
「ああ…遅くなってすまなかったな」
バサッ
黒い影――メタナイトはゆっくり立ち上がり、翼を軽く整えると瞬時に漆黒のマントに変化させ
アイクたちに向き直った。
もっとも、その様子はアイクたちにはよく見えていないのだが。
「すまない、メタナイト…」
「いや、この暗さだ無理もない…
と、そうだ。カービィ、そこにいるな?」
「ぽよ」
「よし、こいつを吸い込んでくれ」
そう言って、メタナイトがカービィの声がした方へ差し出したのは、サングラスをかけた
てるてる坊主のような人形。その頭部分には天使の輪っかみたいなものが浮いている。
人形自身が光を放っているらしく、暗闇の中でもその姿はアイクたちにもはっきり見えた。
「ぽよ!」
それを見て、カービィは迷うことなく差し出されたものを吸い込んだ。
ひゅごおおおお
「ぽよっ!」
パアァァァー……!
その瞬間、カービィから照明弾のようなものが打ち上げられ、
周囲が明るく照らされた。
と同時に、あのてるてる坊主もぽこっと放り出された。
「こ、これは一体…!」
突然の光に思わず目を細め、腕を頭上にかざすアイク。
「これはカービィのコピー能力の一つ、『ライト』だ。
この、クールスプークの照明能力を吸い込むことで、少しの間暗闇を照らしてくれる。
…ふむ。ふたりとも、怪我などしていないようだな」
カービィに能力をコピーされ、排出されたてるてる坊主「クールスプーク」を拾い上げ、
メタナイトは照らされた二人の様子を確認した。
「メタナイト…」
ライトに照らされる中で、改めてその姿を確認したアイクは、メタナイトへと向き直る。
「さっきは悪かったな… 助かった」
「いや、こちらもなかなか見つけられなくてすまなかった。
先程、わずかに細い煙が見えたので急いで向かったのだが消えてしまってな。
焦ってその辺りへ急降下したのだが…驚かせてしまったようだな」
「そうか、あの煙、届いていたか…」
アイクは、短い時間ではあったが大量の煙を上げることができ、それが
メタナイトの目に届いていたことに心からホッとした。
「ああ。あの煙のお陰で見つけられた。
お前たちの飛んでいった方向はわかっていたから、そのあたりを上空から探していたんだが…難航してしまった」
「だろうな。こんなに木が生い茂っていれば無理もない。
まぁ…あんたなら来てくれるとは思っていたさ」
「フッ…なかなかプレッシャーをかけてくれる」
「ぽよ!ぽよぽーよ!」
2人の会話に割りこむように、カービィが手振り足振りをしながら
メタナイトに何かを訴えかけた。
「そうか、其方も狼煙をあげるのを手伝ったのだな。ご苦労だったな」
「ぽよ!」エッヘン
「(な、なんでいまので通じるんだ…!?)」
確かにカービィは狼煙(の跡地)を指さしてはいたようだが、それがどこでどうつながって、
なぜそう言ったとわかったのかアイクには全く不可解だった。
カービィが狼煙を上げるのに協力したか否かについては大いに突っ込みたいところではあるが、
それ以上にアイクにとってそれは大きな問題であった。
「ところでこれはなんだ。バナナの皮…か?」
その、カービィが指差した狼煙の跡と思われるものを見つめながら
メタナイトは怪訝そうな声を発した。
「これがその、カービィが狼煙をあげるのを手伝った痕跡だ…
まぁ、帰ってゆっくり話そう」
「ふむ、そうだな、そうしよう。そろそろお迎えがくる頃だ」
「お迎え…?」
「ああ。私とカービィでアイクを運ぶのは骨が折れるからな。
この照明弾を目印に、ここへ来るよう頼んでいる」
………ィィィ
………イイイン!
上空から、飛行物体が高速で近づいてくる音が響いた。
「ファルコがスカイクローを出すと言ってくれてな」
「スカイクロー…乗り物か?」
「ああ、ファルコの専用機らしい。
私がハルバードを出してもよかったんだが、あれは少々大げさだからな…」
そう言っているうちに、上空からワイヤーロープ製のはしごが降ろされてきた。
「これに掴まれ、アイク」
「これに…?この、はしごにか」
「ああ。足を乗せたら、そのロープをしっかり握るんだ…しっかり捉まっていろよ」
「あ、ああ」
アイクは焚き火(の残骸)のそばにある、自分のマントを拾いあげて手早く装着すると
言われたとおりはしごに足を乗せ、腕を絡ませて捉まった。
「よしカービィ、お前はアイクの右側にいろ」
「ぽ、ぽよ」
カービィは焚き火(の残骸)のそばにある、ちょっぴり残ったバナナに向き直ると
手早く吸い込み、満足そうにアイクの右側へと捉まった。
二人がしっかりとはしごに捉まったのを確認すると、メタナイトはどこからともなく無線機を取り出した。
「ファルコ。こっちの準備は完了した。ゆっくり引き上げてくれ」
「『ああ、わかった』」
上空にいるファルコとの通信を切り、メタナイトもアイクの左側へと捕まる。
それと同時に、ゆっくりと3人の体が上空へと引き上げられた。
「う…わっ…」
アイクは思わずよろめき、自然、ロープを握る手に力が入る。
足の裏と地面は徐々に離れ、焚き火の跡が遠ざかっていく。
はしごを引き上げるファルコも気を遣っているのだろう。
アイクたちはゆっくり、ゆっくりとひきあげられた。
それでもアイクにとっては慣れない状況であり、自分の手足のどこに力を入れればいいのかを探りつつ
よろめきながらなんとか体を安定させ、せめて落ちないようにと両腕に必要以上に力を込めた。
いつもは気にならないラグネルの重さが、今は少々邪魔くさく感じる。
上昇するアイクたちは枝葉をかき分け、やがて高い木々を抜けると、ジャングルを見渡せるくらいの
高度まで引き上げられた。
バサァッ…!
風を遮るものがなくなり、アイクのマントが大きく翻る。
風に煽られまいと、ぐっと腕と脚に力を込めたアイクの目に最初に飛び込んできたのは
暗闇が広がる空のずっと向こうの方で今まさに最後の光をしまおうとしている、赤い夕陽の上縁だった。
「まだ…完全に日が暮れてはいなかったのか」
さっきまで居た森の中はもう真っ暗で、とうに日は沈んでいるものとばかり思っていたアイクは
一番にそのことに意識が向かった。
「ああ。
日が完全に沈んだら、一旦捜索は中断しようと思っていたからな。本当にギリギリだった。
その服装で野宿は、少々厳しいだろう」
秋の夜風を感じながら、メタナイトも間もなく沈むであろう夕陽を見つめた。
「ああ、本当だな…」
半袖では少々辛い肌寒さを感じつつ、メタナイトの声がした方――
やや下方へ、アイクはつい反射的に目を向けてしまった。
下方、つまり地上。
周辺は暗いが、自分たちが居たところはまだ「ライト」の名残がまだぼんやりと光っており
自分がどれほど高く引き上げられているのかは、容易にわかった。
アイクは身震いを覚えた。
今まで高所で試合をしたことは多々あるが、ここは闘技場ではない。
ましてや今は「転送」のシステムが壊れている可能性が高い状況だ。
あの時までは、遠くに飛ばされても軽い痛みで済んでいたが、今になってその機能までが
故障した可能性がないとは言いきれない。
今、手を離してしまったら、足が滑ったら――
想像すると、足裏から血の気が引くのを感じた。
「ぽよ~い」
そんな中響く、カービィの緊張感のない声。
「ああ、帰ったら思う存分夕飯を食べるといい」
自分の両脇で交わされるのんきな会話。
そんな二人に何気なく目を向けると、そこにあるのは、いつのまにか両脇でアイクのベルトを
しっかりと握っているメタナイトとカービィの姿。
空を飛べるふたりは特に打ち合わせをしたわけでもないが、そうしてしっかりとアイクを支えていた。
それを見たアイクは、どこか気が抜けたともに、胸の動悸も少し和らいだ気がした。
ゴオオォォォォ
スカイクローのエンジン音が次第に大きくなると同時に、はしごも短くなり
いよいよ3人は機体へと近づく。
「もう少し…」
アイクがはしごの終点となる機体を見上げると、機内を照らす明かりを背に
嘴と翼のシルエットが浮かんでいるのが見えた。
「もう少しだ。がんばれよ」
上方から自分たちへ呼びかけるのはもちろん、スカイクローの主、ファルコ。
コックピットの天蓋を開け放ち、下方を伺いながらはしごの引き上げを慎重に行っている。
アイクたちが近づいたからといって決して焦らず、ゆっくりと操作をする。
そしてようやく、お互いの顔が確認できるまでに引き上げられた。
「ようアイク、無事だったか」
ファルコが機体から身を乗り出しながら、アイクに手を差し出した。
「ああ…なんとかな」
アイクはフッと笑いながら、ファルコへの手をしっかりと握る。
「よいっ…せ!」
ファルコに支えられ、アイクはようやくスカイクローへと引き上げられた。
ドンッ
「はぁ…」
小さな機体に乗り込み、思わず壁に背を持たれかけるアイク。
安心できる足場へと到着し、ようやく一息ついた。
「ぽよ!」
少々疲れた表情をしたアイクの背中から、カービィがファルコへ何かを訴えるように顔をのぞかせた。
「おお、カービィも無事でよかったな」
「ぽよ!ぽーよ!」
「ああ、俺達も飯はまだだ。帰ったら一緒にたらふく食べようぜ」
「ぽよ~」
「(…ファルコもカービィの言葉がわかるのか…
もしかしたら、人間(ベオク)以外の者には通じるのかもしれないな…)」
どっと疲れが出たアイクは、二人の会話を半分ぼんやりしながら聞いた。
「一人乗りだから狭くて悪いな、アイク。
そのへんの隙間にうまいこと座ってくれ」
確かに機内は狭く、座れそうなところといえば、そう言うファルコの足元にある小さな操縦席と、
その後ろにあるわずかばかりのスペースくらいなものだ。
アイクはそのスペースへ少しずつ膝を折り曲げながら、探り探りで腰を下ろした。
「で、メタナイト。お前さんたちは飛んで帰るのか?」
ファルコははしごを回収しながら、すでにマントを翼に変化させて羽ばたくメタナイトを見上げた。
「ああ。私達は闘技場の明かりを頼りに、のんびり帰るさ。アイクをよろしく頼む。
ほらカービィ、行くぞ」
上空の強い風もうまく捌きながら大きな羽を動かすメタナイトは、カービィに軽く手招きして
スカイクローから出てくるよう促した。
「ぽよー!!」
しかしカービィは、明らかに不服という顔つきで、アイクの腕をつかみながらメタナイトに訴える。
「なんだカービィ、お前もスカイクローに乗って帰りたいのか?」
「ぽよ!」クイクイ
カービィは頷きながら、その小さな手で逆にメタナイトを手招きした。
「な、なんだその手は…それなら私は一人で帰るぞ」
「ハハハ、いいじゃねえか。もうこうなったらお前たちも一緒に乗れ。
ぎゅうぎゅう詰めになって帰ろうぜ」
いつでも出発できる準備が整ったファルコは、笑いながらコクピットへと座った。
「い、いや私は…」
「まぁ、もう諦めろメタナイト。
ほら、ここならあんた一人くらいなら入れるぞ」
アイクは右腕を広げ、指でちょいちょいと自分の右脇腹を指さした。
その反対側には、カービィがほくほく顔でアイクの腕に収まっている。
「……」
バサ… バサ…
すとっ
メタナイトは、無言でアイクの右腕に収まった。
「よーし、全員乗ったな?」
ファルコがクックッと笑いながら頭の通信機になにかをささやくと、目の前にずらりと並ぶパネルを操作し
ゆっくりと天蓋を閉めた。
「じゃあ帰るぞ。しっかりつかまってろよ!」
ぽよ!ぽよ!
こら、暴れるなカービィ
これも宿命か…
ハハ、これだけ乗るとさすがに重いな
……キイィィィィン…!
スカイクローから勢い良くジェットが噴出され、機体は瞬く間に彼らの本拠地――
スマブラメンバーたちが待つ宿へと、一直線に軌跡を描いていった。
ひとときのにぎわいを見せた広大なジャングルの一角。
そこに残った、わずかなライトの名残も
彼らが去ったあと、それは徐々に闇へ飲み込まれ
それから、ジャングルに再び静寂が訪れた。
◆
「あっ、おかえりアイク!大丈夫だったかい?」
「カービィ心配したよー!」
ワイワイ ワイワイ
無事、宿へと帰還したアイクたちがエントランスをくぐると、そこにはファイターたちが
ずらり勢揃いしており、彼らを盛大に出迎えた。
「な、なんだ、この騒ぎは…」
「ぽよー!」
思わずたじろぐアイクたちをよそに、カービィは笑顔で手を振るリュカやネスへと飛びついた。
大変だったねー!
救助組もお疲れだったな
みなさん怪我がなさそうでなによりですわ
お腹すいたでしょ?
ほんと、夜になる前に見つかってよかったよ
カービィは自分たちを囲む彼らへ嬉しそうに応え、ぽよぽよと身振り手振りをしてみせるが
アイクは突然の出来事に対応できず、ああ、と相槌を打つので精一杯だった。
そのうち、彼らを取り囲むちびっ子や女性陣がカービィへと集中し、アイクの周りから
少し人垣が減ったのを見計らい、マルスがゆっくりとアイクたちの元へとやってきた。
「おかえり、アイク。思ったより元気そうで本当によかったよ」
昼過ぎから日が暮れる今の今まで行方も知れず、連絡も取れず、その身体の無事すら知れなかった
彼らが無事帰ってきたことに、マルスは心底ホッとした様子で笑いかけた。
「ああ。心配かけたな」
「ううん、きっとメタナイトとファルコなら見つけてくれると思ってたからね。
ふたりとも、お疲れ様」
「…少々、待たせてしまったがな」
「ま、簡単にくたばったりする奴らじゃないからな。
俺たちはちょっとした手助けをしたまでさ」
誤魔化すようにそう言う二人を、マルスは笑顔で労をねぎらった。
「ところでマルス。こんなに集まって何事だ?
まさか、俺達の出迎えってわけでもないだろう」
未だにこの状況がよく飲み込めないアイクが、頬を掻きながらマルスに尋ねた。
ロビーをひと通り見渡した限り、ほぼ全ての面子が揃っている。
居あわせていないのは、ガノンドロフとクッパくらいだ。
はじめこそ、そこに居合わせたものたちが自分たちの帰還を喜び、取り巻いていたがそれもつかの間。
今はもうほとんどの者がロビーのソファーに座るなり、談笑するなりしてくつろいでいる。
かといって、自分たちの部屋へと戻ろうとするものは誰一人としていなかった。
「確かにそうだな。何かあったのか?」
メタナイトも何が起こっているのか分かっていない様子でロビーを見渡し、
「いいからさっさと飯にしようぜ。おーいカービィ!」
ファルコは特にこの状況を気にする様子もなく、カービィを誘って食堂へと向かおうとした。
「あ、ファルコちょっと待って。これから」
マルスがファルコを呼び止めたその時
ぴーんぽーん ぱーんぽーん↑
ファイターがひしめくロビーに、宿の館内放送チャイムが響いた。
その一瞬で空間は静まり返り、そこにいた全員がスピーカーへと耳をすませた。
こちらは スマッシュブラザーズ 本部です。
マスターより 緊急通達のため ファイター全員の 収集が かけられました
ファイターの皆様は 15分後 までに ロビーへ お集まりください
ぴーんぽーん ぱーんぽーん↓
……ざわ
ざわ…
放送が終わると、ロビーは再び喧騒に包まれた。
「緊急収集だと…?」
ファルコが訝しげに宙へ視線を投げた。
「そういうこと。
ファルコから君たちの保護の通信が入った時点で、マスターから緊急収集がかかったんだ。
それで僕たちはここに集合してるってわけさ」
ロビーのメンバーを見渡しつつ、マルスがそう説明する。
「しかし、なんだっていうんだ一体…」
早く休みたいアイクは、疲れを隠し切れない様子で横にあった柱にもたれ、腕組みをした。
「おそらく、アイクたちの事故に関することだろう。
…その説明ではないか?」
と、推測するメタナイトの低い声が足元から響いた。
「たぶんね。
まあ、まだ少し時間があるし、それまでここで休んでいるといいよ」
マルスは柔らかなソファーの並ぶロビーへと手を向けて、帰還した彼らにそう促した。
「では、そうさせてもらおう」
「ちっ…しゃーねーな」
メタナイトが手近の空いているソファーへ座ると、ファルコもそれに伴い隣へ腰掛け、フウッと溜息をついた。
「ま、仕方ないか…」
アイクはそのまま柱にもたれかけ、目を閉じ、一息つこうとした。
くいくい
「…ん?」
何かが自分のズボンを引っ張っているのを感じ、目を開けて足元を見ると
そこにいたのは、いつの間にかこちらへと戻ってきていたカービィだった。
「ぽよ、ぽよー」
「な、なんだ?」
「そこでいっしょに座ろう、ってさ」
横からマルスが、そう”通訳”してきた。
「な…!マルス、お前、カービィの言葉がわかるのか?」
アイクは思わず身を乗りだしてマルスに尋ねた。
「え?いや、その、なんとなく、そう言っているように聞こえるというか…
そういえば考えたことなかったなぁ」
あははと頭をかくマルス。
「……(もしかして分からないのは俺だけか…?)」
アイクは、無邪気に自分へ笑顔を向けるカービィの顔をまじまじと見つめた。
「こんなところじゃなんだしさ、カービィの言うとおり座って待っておこうよ」
「ぽよ ぽよ♪」
「………あ、ああ…」
アイクはどこか腑に落ちないという表情で、カービィとマルスに言われるまま
ロビーの絨毯に足を沈めながら、メタナイトとファルコたちの座るソファーへと向かった。
―――
―――――
「…で、焚き火が消えてしまってな」
「あはは、カービィらしいね」
「カービィは手伝ったと言っていたがそういうことか…」
「メタナイトが煙を見つけてなかったら野宿コースだったな」
アイクたちは、ジャングルでの出来事を話しながらソファーでくつろいでいた。
カービィはというと、短い時間とはいえじっと待っていられるわけもなく、そのあたりで
同じく暇を持て余していたディディーコングと遊びはじめている。
他のファイターたちも各自仲の良いものと話をしたり、ゲームをしたりして
マスターの”緊急通達”とやらを待っていた。
「よ、アイク!災難だったな」
そこへ話しかけてきたのは、ドンキーコング。
いつも誰かれ構わず気軽に話しかける彼だが、今回アイクが自分の故郷に似たジャングルへと
迷いこんだと聞いて、特に話をしてみたくなったのだろう。
「ああ。今ちょうどその話をしていたところだ」
アイクは、後ろから話しかけてきたドンキーへと体を向けた。
「いやー、無事帰ってきてなによりだよ。
ジャングルで人間が迷い込んだら、なかなか出られないって言うからさ」
「…なに、そうなのか!?」
「ええっ!ジャングルって、普通の森とは違うの?」
アイクとマルスが、さっきまで笑いながら話していたジャングルの出来事とのギャップに驚き
ドンキーへ食い気味に聞き返した。
「ああー、夜になると半端なく冷えるし、道も歩きにくかったでしょ?人間には結構辛いと思うよぉ~。
それに、その辺の森に比べて毒を持ってたり凶暴な動物が多いし!しかも夜行性。
本当に今日中に見つかってよかったよ」
それを聞いて、アイクは改めてぞっとした。
夕暮れギリギリに見つかったことは、全く運が良かったのだ。
「ああ、本当にな…」
「ほ、ほんとにね… よかったね、凶暴な動物に襲われなくて」
「『ワイルドワールド』のような所を想像していたが、全く違うのだな」
「やっぱり俺は空がいいぜ」
ドンキーの話を聞いた彼らは、夜のジャングルの怖さを知って口々にそうつぶやいた。
アイクは森での野営は何度も経験したことはあるが、ジャングルでやるものではないな、と改めて思った。
「で、ジャングルのどの辺に落ちたんだ?」
ジャングルの危険性はさておき、のんきなドンキーはさっさと次の話題に移る。
「どのへん、といわれてもな…」
もちろん、ジャングルに建物はおろか道らしき道があるわけでもなく、標識があるわけでもない。
ジャングルならドンキーにはなんとなくわかるのだろうが、アイクには当然そんな見当がつくわけもなかった。
「うーむ……ああ!
そういえばカービィがたくさんバナナを取ってきてたな。おそらく、近くに群生地があったんじゃないか」
「えっバナナがたくさん、だって…?」
ドンキーは、自分の投げかけた質問に思いがけない回答が返ってきたと見え、少々
落ち着かない様子でアイクに聞き返した。
「ああ。カービィが腹一杯になるほどのバナナがあったようだが…それがどうかしたか?」
「そ、そ、そうなんだ」
いよいよドンキーはそわそわしだし、キョロキョロとあたりをみわたした。
と、ちょうど自分の背中のほうでディディーコングと戯れているカービィの姿を発見した。
「ね、ねぇカービィ…」
「ぽよ?」
カービィはディディーと遊ぶ手を止め、ドンキーへと顔を向けた。
「ジャ、ジャングルで、たくさんバナナを見つけたんだってね」
「ぽよ」コク
「もぉ~しかして、そのバナナ、樽の中に入ってなかった?」
「ぽよ」コク
と、ここで、なんとなく不穏な雰囲気を感じ取ったディディーコングは、そろーりそろーりと
離れたところにあるソファーへと避難して行った。
「もも、もしかしてたーっくさんの樽の中に入ってなかった?」
「ぽよぽーよ」コクコク
「オーノーォーッ!!」
がくぅっ
ドンキーは、思い切り肩を落とした。
「どうしたドンキー。
もしかして、そのバナナはお前のだったのか?」
ファルコがそう聞くと、ドンキーは涙目の顔を向け、無言で頷いた。
カービィが大量のバナナを見つけた結果、どうなったか。
それは火を見るよりも明らかだ。
「あ、あらら…」
さきほど、バナナの話を笑いながら聞いていたマルスも、思わず気まずい表情を浮かべる。
「ふむ、カービィが満腹になるほどの量のバナナがそう簡単に手に入るとは思えないからな。
そういうことだったか」
メタナイトは妙に納得し、頷いた。
「そうか…悪かったな、ドンキー。
今度、俺もバナナ集めに協力させてもらおう」
バナナを取ってきたのはカービィとはいえ、自分もご相伴にあずかった身。
アイク自身もドンキーに少々申し訳ない気持ちになった。
「いや、いいんだ…お前たちが無事だったんかから…」シクシク
すっかり肩を落としたドンキーコングはアイクたちに背を向け、とぼとぼとその場を去ると
”避難”していたディディーコングの腰掛けている長ソファーに、どすぅーんと座り込んだ。
ぼよぉんっ、と跳ね上がるディディーコング。
「元気だせよドンキー!オイラもバナナ集め手伝うからさ!」
しょんぼりしている意気消沈ゴリラ…じゃなかったドンキーに
ディディーコングはそう言いながらバシバシと肩を叩いた。
「ぽよ…?」
その様子を不思議そうに見つめるカービィ。
「おい、カービィ…」
「ぽよ」テクテク
アイクに手招きされ、カービィは素直に駆け寄った。
「あの時俺に持ってきたバナナだが…
見つけたのは、あれで全部じゃないんだろう?」
ドンキーがしょんぼりしている理由がいまいちわかっていなさそうなカービィに
アイクは小声で聞いてみる。
「ぽ…ぽよ…」ソワソワ
「…いいんだ、わかっている。
その見つけたバナナは、あれよりもたくさんあったんだな?」
「ぽよ…」コク
「バナナは樽の中に、たくさん入ってたんだな?」
「ぽよ」コク
「その樽は、たくさんあったんだな?」
「ぽよ」コク
「で、樽に入っていたバナナは、全部食べたんだな?」
「ぽよ♪」コク
その場に「やっぱりね」という空気が流れる。
「………どうやら、そのバナナはドンキーが大事にしてたものだったらしい。
きちんと、詫びと礼を言っておいたほうがいいぞ」
「ぽよ…!」
ようやく理解したカービィは、急いでドンキーに駆け寄っていった。
ドンキーの前に立つと、身振り手振りを交え、ドンキーに一生懸命何かを話しかけるカービィ。
おそらく謝ったりお礼を言ったりしているのだろうが、どう聞いても、アイクにはぽよぽよとしか聞こえない。
しかしそれに応えるようにドンキーは努めて笑顔を浮かべ、もういいんだと右手でジェスチャーをし
その横でディディーも、気にすんな!とカービィの肩を叩いている。
「…ドンキーたちにも通じるんだな…」
その様子を遠巻きに見ながら、カービィがきちんと謝れているかよりも、言葉が通じていることの方が
気になるアイク。
「アイクも、カービィと一緒にいればすぐに分かるようになるよ」
アイクのつぶやきに、マルスは律儀にフォローを入れる。
「そういうものかな…」
「えー…コホン」
とそこへ、ロビーの奥からキノピオがやってきた。
どうやら通達の時間になったらしい。その手には、大きな封筒を抱えている。
アイクたちもバナナ騒動は一旦おいておき、キノピオの方へと顔を向けた。
「はい、みなさんお揃いのようですね!
それでは、マスターからの通達をお知らせします!」
その声に、一斉にその場に居たファイターが注目する。
よく見ると、端っこの方にいつの間にかガノンドロフとクッパの姿もあった。
その場のファイターたちが自分へと注目しているのを確認すると、キノピオは封筒から
1枚の紙を取り出し、それを読み上げ始めた。
「えー、急な招集にもかかわらず、メンバー全員お集まりいただきありがとうございます。
みなさまもすでにご存知のように、本日昼過ぎに行われた試合で、
アイクさんとカービィさんが試合場へ復帰・転送されないという事故が起こりました。
幸い、メタナイトさんとファルコさんによって、お二人ともご無事にお戻りになられたこと
安堵いたしましたとともに、大変ご迷惑をおかけいたしました。」
書いてあることを棒読みのように読み上げるキノピオ。
やはりメタナイトの予想通り、今回の事故に関する通達のようだ。
「その事故の原因をマスターが急遽調査した結果、転送装置に重大な欠陥が見つかったそうです。
試合中、特定のステージ、特定のアイテム、特定の技を使った時、転送に『穴』が開くという、非常に起きる
確率は少ない事象ではありますが、今後2度と同じ事故が起きないよう、明日の夕方より修復作業にとりかかります」
「じゃ…じゃあ、その間、試合は?」
キノピオのすぐ近くで話を聞いていたマリオが、話の途中で思わず身を乗り出した。
「申し訳ありませんが、作業完了まで試合は中止となります」
ざわ…ざわ…
キノピオの言葉を聞き、その場がざわつきだした。
「その修復まで、どれくらいかかるんだ…?」
マリオは、その場の皆が気になっているであろうことを代弁するように、恐る恐る聞いてみた。
「ええと…完全復旧には約1週間を要するそうです。で、ここからが重要なのですが…
かなり大掛かりな作業にになりますので、その間はみなさんには里帰り…元の世界へ一時帰還していただきます」
「休暇、ってことか!?」
「へぶっ、ちょっ…」
キャプテン・ファルコンがマリオを押しのけ、食い気味で声を上げた。
「ええ、みなさん普段、少ない休みで頑張って頂いていますから、
この機会にゆっくり羽根を伸ばしてきて欲しいそうです」
イヤッホゥーーー!!
どこからともなく歓声がわいた。
どこへ遊びに行こうかな
よっし、ゴロゴロするぞー!
読みたい本がたまってたんですよね~
おみやげ買わなきゃ!
ファイターたちのほとんどが今日の事故のことはどこへやら。
ロビーのいたるところで、早速思わぬ「休日」の計画が立て始められた。
「す、すいません皆様!まだ続きがあります!
急ではありますが、明日の午後15時までにはここをご出発いただきます!
ではよろしくお願いします!」
キノピオが、ざわざわと騒ぐ集団に叫ぶと、持っていた通達文をたたみ
再び封筒へとしまいこんだ。
通達が終わるとみると、ファイターたちは口々に休暇の予定を話しながら
徐々にロビーからひとり、またひとりと姿を消していった。
「よっしゃ、昔の走り屋仲間でも誘って飲みにでも行くか!
(久々に飛ばしてくるかな…)ボソ」
「私は特に休暇は必要ないが…
まあ、久しぶりにメタナイツやフームたちの顔を見に帰るのも悪くないな」
「ぽよ!ぽよー!」
ファルコやメタナイトたちも周りのメンバーたちと同じく、思わぬ休暇に
心を弾ませはじめていた。
「……」
「ぼくも久しぶりに王宮のみんなとゆっくり話がしたいなぁ。
シーダへのおみやげは何がいいかな…あれ、どうしたのアイク、浮かない顔して」
すでに心は祖国へと向けられたマルスが横に目を向けると、そこには
その場にいる皆と正反対の表情で固まっているアイクの姿。
その、浮かぬ顔の前に、キノピオがてくてくとやってきた。
「あの、アイクさん、事故後、体調に問題はないですかね?
なんだか顔色が優れないようですが…」
「…」
「アイクさん?」
「!……あ、ああ、大丈夫だ……」
キノピオにそう聞かれ、思わず我に返るアイク。
「そ、そうですか。
カービィさんも、大丈夫ですか?」
「ぽよ!」シャキーン
「おふたりとも大丈夫そうでよかったです。後日何かあったらご遠慮なくお申し出くださいね。
…それと、ちょうどここへおられる方々への通達がありますので、読ませていただきますね」
そう言うと、キノピオは封筒をがさごそと探って小さなカードのようなものを取り出し
ファルコたちへと向きを変えてそれを読み上げた。
「ええと…ファルコさんとメタナイトさんは今回、アイクさんとカービィさんの救助にあたっていただき
厚く感謝申し上げます。気持ちばかりとはなりますが、特別ボーナスとして、休日の3日間の延長、
もしくはファイトコインが100枚贈呈されます。
…で、お二人はどちらにされますか?」
ファルコたちへの通達というのは、なんとマスターからの特別ボーナス。
そんな「ご褒美」などは滅多なことではもらえない上、どちらも簡単に手に入るものではない、貴重なものだ。
それだけ2人はマスターの手助けになったということだろう。
「私はどちらも結構だ。たまたま、事故が起きた時に居あわせただけだからな」
メタナイトは手のひらをキノピオに向け、あっさりとその申し出を断った。
「そ、そうですか…ファルコさんはどうされますか?」
「俺もいらねぇ。
1週間も休みがありゃ十分だし、コインは足りなきゃ自分で稼ぐさ」
「そうですか…お二方とも、ボーナスは辞退されるのですね。
では、マスターにそう伝えておきます…」
ファルコにも貴重なボーナスの受け取りを断られ、ちょっぴり残念そうな顔のキノピオ。
しかし気を取り直し、次にアイクとカービィへと向き直る。
「そ、そしてですね。今回特にご迷惑をお掛けしましたアイクさんとカービィさんにはなんと!
さらに1週間の休暇を与えられるとのことです!」
「なっ…!」
「ぽよ?」
どうや顔でふんぞり返るキノピオ。
硬直するアイク。
よくわかってないカービィ。
「へぇ!カービィもアイクもよかったね!こんなことって滅多にないよ……あれ、アイク?」
マルスが振り向くと、アイクは目を見開き、口も半開きで固まっていた。
「ど、どうしたの!?アイク」
「……い、いや……」
アイクの頭に真っ先に浮かんだのは…もちろん、エリンシア王女。
あの強烈すぎる夢は、じわじわとアイクを悩ませていた。
本来の休暇である「正月休み」まであと数ヶ月あるため、それまでにあんな夢は
忘れれば良いと思っていたが、そこにいきなり与えられた一週間の休暇。
加えて、さらに一週間の延長。
帰郷して彼女を目の前にした時、冷静でいられるか。
果たして彼女に会わずに二週間も自国で心安らかに過ごせるのか。
アイクは数秒の間で、ぐるぐるぐるぐると考えを巡らせた。
「アイクさん?」
心配そうに覗きこむキノピオに、ハッとするアイク。
「……お、俺もいらないぞ!悪いが休みは返上させてもらう!」
アイクは、キノピオへ叫ぶようにそう言うと、ほのかに顔を赤くして目をそらした。
「え、えええー!そ、そんなアイクさんまで…!
ま、まさかカービィさんも…?」
アイクにまで「ごほうび」を拒まれたキノピオは、恐る恐るカービィへと顔を向ける。
「ぽよ」
「そんな…」
「ぽよぽーよ、ぽよ」
「そうですか…そうですよね。
メタナイトさんやデデデ大王さんたちと一緒に戻りたいですよね…わかりました…」
キノピオはがっくりと肩を落としながら、カードを封筒にしまい込んだ。
そんなキノピオもカービィの言葉がわかるようだが、アイクにはもはやそんなことは耳に入ってこないようだ。
「では、みなさまごゆっくり休みを満喫してください…」
そういうと、キノピオはとぼとぼとロビーをあとにした。
「ご苦労様~」
マルスは、苦笑いでキノピオの後ろ姿を見送った。
「さて、と。
さっそく昔の仲間たちに連絡するか」
マスターからの通達も終了し、すでにここへは用がないと判断したファルコは
ぽんと両膝を打ち、ソファーから立上がった。
「と、その前に飯だな。
じゃあな、お前ら。良い休暇を過ごせよ」
そう言ってアイクたちに二指の敬礼をすると、さっと踵を返した。
「ぽよ、ぽよー!」
ファルコの「飯」という単語に素早く反応したカービィは、急いで彼の隣に並ぶ。
「すっかり遅くなっちまったな…今日は何にすっかな」
「ぽよー♪」
お腹をすかせたふたりは、上機嫌そうに食堂へと向かった。
「せっかくのボーナスなのに…まぁ、君たちらしいね。
じゃ、ぼくも帰郷の準備をしようかな」
彼らを見送ったマルスも席を立ち、自室へと向か
ピタッ
ぐえっ
おうとしたが、何者かにマントを掴まれ、足を止めた。
「マ、マルス…」ギギギ
「げほっ…
どうしたんだよアイク…」
マルスはマントを掴んだ主にゆっくりと振り返る。
「わ、悪いが…休みの間、お前の『世界』に厄介になりたいんだが…どうだろうか…」
アイクは無駄に深刻な面持ちでマルスを見上げ、そう”懇願”した。
「え…どうしたんだい急に」
「…」
アイクは無言で、マルスのマントから手を離した。
「そりゃあ僕は大歓迎だけどさ…どうしたの、さっきから。
なにか、帰りたくないわけでもあるの?」
引っ張られて、ずれたマントの位置を直しつつ、マルスは改めてアイクに向き直った。
「い、いやその…」
「別に不義をはたらいたわけでもないんでしょ?
ここでだってアイクの成績は上位をキープしてるんだし…
何も帰りにくいことは無いはずだよ」
「…」
「こんな機会なんだし、アイクも里帰りした方がいいんじゃないかな。
きっと郷のみんなも喜ぶよ」
マルスの非の打ち所のない”反論”に、閉口しきってしまうアイク。
もちろんマルスには何の悪気もなく、ただアイクと、アイクの故郷の人々の為を思って言っていることは
アイクにもわかっていたし、自国に帰ったほうが良いだろうことは心の端っこで分かっていた。
「ほら、なんていったっけ、妹さん……そう、ミストちゃん!
きっとミストちゃんや、傭兵団のみんなもアイクに会いたがってると思うよ」
「……」
エリンシアの夢を見たから
エリンシアの、言葉にするのもはばかられる夢を見たから、など、とても言えない。
「それとさ、あの、クリミアの王女様!」
「…!」
「きっと彼女もアイクの顔を見たら喜ぶはずだよ!
スマッシュブラザーズに選ばれた誉れある自国の将軍が帰ってくるんだし。
なんて、僕が言うのもなんだけどさ。絶対帰ったほうがいいって!」
今、もっともアイクを動揺させるであろう人物――
その人物を無邪気に口にするマルスを前に、アイクはたらだらと嫌な汗を流す。
「ねっ」キラキラ
「」
「?アイク……?」
「………いや……その、すまなかった。変なことを言って…」
絞りだすようにつぶやくアイク。
「え、いや、そんなことは」
「あんたは、故郷で、ゆっくり、過ごしてこい…」
どこを見るでもなくそう言うと、アイクは燃え尽きたようにうなだれた。
「ちょっとアイク…」
「マルス」
アイクの肩に手を置こうとしたマルスを、さきほどから彼らのやりとりを黙って見ていた
メタナイトが制した。
「先に部屋へ戻っていてくれ」
「え、でも…」
「其方は明日の準備もあるんだろう。
私がアイクと話をするから、気にせず部屋に戻るといい」
燃え尽きポーズのまま身動きをしないアイクと、至って冷静にそう言うメタナイトを
マルスは黙って交互に見つめる。
「…」
やがて、マルスは諦めたように俯いた。
「わかった…メタナイトに任せるよ。何かあったらいつでも言ってね。
じゃ、お先に…」
少し後ろ髪を引かれる気分ではあったが、ここで渋るのもメタナイトに失礼だと判断したマルスは、
一旦引くことにした。
「ああ、今日はゆっくり休むといい」
「うん、おやすみ…」
マルスは右手を軽く上げ、メタナイトに笑いかけると最後にちらっとアイクを見て、
「じゃあね、アイク。
傭兵団のみんなと、王女様によろしく」
と、とどめの一発を言い放ち、ロビーから去っていった。
___
しん、と静まり返るロビー。
「……エリンシア王女」
仮面の下からぼそりと発せられた単語に、びくっ、と肩を震わせるアイク。
「やはりな…
さっきから様子を見ていると帰郷を渋るのには、どうも彼女がネックになっているようだ
「……」
「訳ありか」
もはや真っ白になっているアイクが頭を抱えるように頷くと、ひどく憂鬱そうにため息をついた。
「深く聞きはしない。なにか帰りにくいわけでもあるのだろう」
「……」
これからどうしたものか
俺だけ残れないのか
やはり帰るしかないのか
どんな顔をして帰ったらいいのか
思考の表面でそんな思いが滑りつつ、ぼんやりと一点を見つめる。
「まぁ…どうだ。
今度の休みは、プププランドに来てみるか」
「……なに…?」
メタナイトの思わぬ提言に、アイクは、急に色が戻ったように首をもたげた。
「カービィの言葉がどうとか言っていたようだしな。
一週間カービィの近くで過ごしてみるのも、悪く無いと思うが」
「いいのか…?」
メタナイトを見るアイクの顔色がみるみる良くなっていく。
「ああ、城にはいくつか部屋もあるしな。カービィも、其方がくれば喜ぶだろう」
「そうか…そうさせてもらえるとありがたい…」
アイクは今まで溜めたモヤモヤをため息とともに吐き出すと、安心したように
だらりとソファーへもたれかかった。
「まぁ、誰しもそんな時はある。遠慮なく来るといい」
「すまない、恩に着る…」
メタナイトはそんなアイクの様子を見て、フッと仮面の下で微笑むと
カチャリとわずかに装備の触れ合う音をたて、ソファーを降りた。
「では、我々も食事にしよう」
「…そうだな」
数秒宙を見つめ、アイクはおもむろに立ち上がった。
立ち上がってみると、自分が空腹であることを思い出し、少し笑った。
最後まで残っていた剣士二人は、そうして小さくて大きな問題を解決させると
その場を後にし、ロビーは本来の静けさを取り戻した。
――
―――
「ところで、俺がいきなりあんたの国に行っても驚かれはしないか?
その…種族も違うからな」
「大丈夫だ。プププランドにもここ程ではないが、いろんな種族がいる。
そもそもそんなことを気にする者はいないから、安心するといい」
食堂へ向かう廊下で、2つの足音と、話し声が響く。
「そうか…平和な国だな」
「ああ、平和すぎるほどにな…
プププランドで、ゆっくり珍道中の続きを聞かせてくれ」
「ああ…」
メタナイトの隣を歩くアイクは、そう答えつつある思いに駆られはじめていた。
カービィは…ふにふにだった
そしてメタナイトも、ふにふにだった
プププランドとやらには
カービィと同じ種族がたくさんいるのだろうか
赤や緑のカービィがいて
国中、見渡す限り、あのやわらかな…
アイクはそこで思考をシャットダウンし、頭を思い切り振った。
「どうした?」
「い、いや、なんでもない!
そ、その、カービィも同じ…じゃない、その、
あんたと同じように、いつか喋れるようになるんだろうか」
「どうだろうな…その辺りは私にもわからないな。
まぁ、きっと帰る頃にはアイクもカービィとも話せるようになるだろう」
「あ、ああ…そうだな」
アイクは熱くなった頬に手を当て、落ち着きを取り戻す。
今度の帰郷には、みやげを多めに持って帰るか
ちょっぴり痛む後頭部をさすり、食堂の扉をくぐった。