気まぐれ流れ星二次小説

星は夢を抱いて巡る

第4章 歓びをもらたす者 ③

 

 

 

翌朝。試合が始まる前のスタジアムに張り込むべく、二人そろって六時頃に起床すると、パンだけの食事を済ませてすぐに大都会の空に飛び立っていった。しかし昨日の苦戦ぶりから、二人とも薄々、何かしらの邪魔が入るのではないかと予想していた。

案の定、第一試合が始まる前のスタジアムには軒並み、あの不可視のバリアが張られていた。しかも今回はスタジアム全体を覆えるほど大きく、観客席はおろか、エントランスに入ることすら叶わなかった。レッドと彼のポケモン全員とで手分けしてどこかに穴が無いかと調べたのだが、地上も上空にもバリアの隙間は見当たらず、試合前のスタジアムは蟻の子一匹通さないよう、きっちりと几帳面に守られていることが分かった。

結局、スタジアムの清掃や試合の準備に取り掛かるスタッフがやってくるまでそのバリアが解けることは無く、彼らに『ずいぶん早く来る人がいるものだ』と物珍しそうな視線を向けられながら、二人はスタジアムをとぼとぼと後にしていった。

スターは相変わらず、試合が終わればスタジアムから忽然と姿を消し、何食わぬ顔で別のスタジアムに顔を出す。それも、こちらがリザードンに全速力で飛んでもらっても数分かかるような場所に。彼らがその間バスや自動車に乗り込んでいくような様子も無く、二人は、地下に超高速の輸送網でもあるのか、あるいはテレポート装置でもあるのかと頭を悩ませていた。

 

そうこうしているうちに日が傾き始め、最終イベントであるパレードの時刻が刻一刻と近づいてくる。

タイムリミットが迫る中、次に二人が試みたのは変装。二人が勝手に拠点とした“円と十字”のスタジアムに戻って、何か使えるものはないか、転送装置でもないかと探索していたピット達は、装置こそ見つけられなかったものの、代わりにスタッフ用のロッカールームを発見したのだ。

ロッカーの中にはハンガーに掛かった制服が残されていた。寸法自体はここのエリアの人々に合わせられているように思えたが、試しにレッドが自分の服の上から袖を通すと嘘のように伸び広がって身体になじみ、長すぎず短すぎず、ちょうどよい塩梅で着ることができた。ピットの方は背中の翼が邪魔になりそうだったのだが、制服は翼の分も含めて広がっていき、最終的に翼は服の中にすっぽりと収まってしまった。

その様を見ていたレッドは、ちょっと驚いたように目を丸くしてこう尋ねる。

「ピットくん、背中窮屈じゃないの?」

「うん。羽根がちょっとくすぐったいくらいかな」

そう言いながらもピットは精一杯身をひねり、自分の背中を確かめていた。自然を司る神から『小さい』とからかわれた翼とはいえ、折りたたんだ状態でも自分の腰から肩の高さを越えるくらいまではあったはず。だが視界の端、肩越しの風景にいつもあったはずの翼は見えず、ただ単に服の中に収まっただけでは説明がつかなかった。

理屈はともあれ、これで準備中のコートに紛れ込んでも目立たない姿となった。鏡で『傍からの見た目』もしっかりスタッフのそれになっていることを確かめてから、さっそく二人は近場の別のスタジアムへと向かっていった。

 

そのスタジアムでは、折りしも次の試合の準備が行われているところだった。

またしてもスタッフ専用の通路に入り、ピットは先頭を堂々と歩いていく。本物のスタッフたちが何も気づかない様子ですれ違いざまに挨拶をくれるのにも、堂に入った振る舞いで返事をし、にこやかに手を振り返していた。レッドの方はというと、そんなピットの後ろに控えて慎重に辺りに気を配っていた。ピカチュウもさすがにボールに戻されており、今の彼の肩にはだれも掴まっていない。

ふと振り返ってそれに気づいたピットは、安心させるように笑いかける。

「大丈夫だよ。こういうのは、当然の顔してれば意外と気づかれないものなんだ。人間って身の周りに注意しているようでいて、本当はみんな、何事も起こらないのを望んでるんだよ」

そうして前を向き、コートへと続く廊下を堂々と進んでいく。

しかしその後ろ、レッドは依然として不安そうな様子だった。

「でも……これ、本当に気づかれてないのかな……?」

それから眉をひそめて、

「なんだかあの人たちの反応、僕らを“お客様”だと思ってる時とあんまり変わんないような気がするよ」

そう言った矢先、二人の背後でこんな声が響き渡った。

「そこのお客様。どちらへ行かれるのですか?」

二人の歩調が乱れる。だがピットは振り返ることなく、レッドに声を抑えてこう告げた。

「歩き続けて。僕らに言われたんじゃない」

彼が見据える先には、縦長の長方形に開けた光があった。通路の出口、スタジアム内に繋がるゲートだ。

「え、でも……」

戸惑いを隠せないレッドを遮り、ピットはきっぱりと宣言する。

「――僕が合図したら、全力で走るよ」

「そんな――」

驚きに目を見開いた少年を、勢いで押し切るように天使は言った。

「今だ!」

有言実行とばかりに全速力で駆けだした天使。慌ててレッドもその後を追いかける。

コートに通じる出口はもう目の前まで迫っている。

大きく踏み切った最後の一歩、二人の視界いっぱいに広がるのは、青空の下、朝の陽に照らされた緑の庭園。整然と刈り揃えられた庭木の向こう、遠くにレンガの小径も見えていた。

 

そこで二人は、次の一歩が固い地面を踏んだことに気づいてはたと立ち止まる。

平らで滑らかな、草地にはあり得ない感触。

 

記憶に新しいその触感に、我に返った二人。目の前には四角四面の通路と、ご立腹の形相でこちらに向かって走ってくるタマゴ頭のスタッフたち。

揃って背後を振り返ると、そこには出口の形に四角く切り取られた外の風景があった。

いつの間にか、彼らは先ほどの通路まで逆戻りしていたのだ。

 

先に衝撃から立ち直ったピットは、傍のレッドにこう尋ねる。

「……ありのまま、今起こった事を話しても良い?」

「後にしよう。まずはこの場をどうにかしなきゃ」

「それもそうだ。後ろは――」

踵を返して再び出口に飛び込むかに見えたピットは、

「――っと」

土壇場で踏みとどまり、その手に神弓を取り出した。

素早く光の矢をつがえて放つと、青い光線は通路とコートの境界で何かにぶつかり、ふっとかき消えてしまった。

「やっぱりね」

衝突する前に気づいて良かったという安堵と、逃げ道が失われたことへの焦りに、彼は口の片端を引きつらせて笑う。

彼が見つめる先、見えないバリアを隔てた外では、ひときわ大きな広場にキーパーソンの面々が集まりつつあった。

それに気が付いたピットは、ふと怪訝そうに眉をしかめた。

――いつの間に? みんな、別の通路から来たのかな。それとも……

任務に気を取られてしまった彼の横で、だしぬけにレッドの声がこう言った。

「ゆけっ、エーフィ!」

振り返ると、一瞬の閃光とともに、薄紫色の毛並みを持つ四つ足のポケモンが姿を現していた。

その細身なポケモンは二股の尻尾を揺らし、猫にも似た大きな耳を立てて低く身構え、こちらへ走ってくるスタッフ達を静かに待ち受ける。

「ピットくん、目をつぶってて!」

そう注意してから、すぐさまレッドはエーフィに向けてこう言った。

「“フラッシュ”!」

固く瞑った瞼の向こう側、雷光のような白い光が弾けたかと思うと、スタッフの慌てふためく声が聞こえてくる。

恐る恐る目を開けたピット。いきなり手が迫ってきて、思わず身構えてしまったが、それはレッドの手だった。

「今だ、にげるよ!」

こちらの手首をつかまれ、引っ張られるようにしてピットも走りだした。

走りながらも辺りを見ると、ついさっきまでピット達を捕まえようと追いすがっていたスタッフ達は皆、目をしょぼつかせて壁に寄りかかったり、床に座り込んで呻いていたりと、全員その場から動けなくなっていた。

「君もなかなかやるね」

ピットがにやりと笑って言うと、レッドはちょっとばつが悪そうな様子でこう返した。

「だって、あんな一度に来られたらさすがにさ……」

 

 

スタッフ専用の通路を抜け、二人は物陰でスタッフの制服を脱いで本来の服装に戻った。一旦はそのままスタジアムを後にしようとしたのだが、ピットの発案で一般客用のスペースに引き返してみることにした。

曰く、先ほどスタッフが止めに入ったのは、コートに踏み入る直前という土壇場の段階だった。レッドが心配したとおり、彼らはスタッフの制服を着ていようと惑わされることはなく、自分たちを来客者として認識できるのかもしれない。だが、試合の進行を邪魔しかねない行動に出るまで呼び止めなかったということは、今、客として試合を見に行っても別に気にしないのではないか、と。

 

果たして彼の予想通り、二人は特に見とがめられることも無く、受付で入場券を購入して観客席に入ることができた。

 

このスタジアムで行われている“試合”は、参加者自らが駒となって動く双六のようなゲームだった。

キーパーソンを含む四名のスター達が順繰りに、頭上に浮くサイコロをジャンプして止め、出た目に従って丸いタイルのマスを進んでいく。時折、何かの条件を満たして四人の姿が一斉に消えたかと思うと、スタジアムの空中に映像が映し出され、別の空間に移動した彼らが種々のゲームに興じる様が流れる。勝利した人には戦利品と思しき星が配られ、再び全員が目の前のステージに、元いたマスに戻ってくる。

周囲の観客たちは、スターの誰かが特定のマスに止まったり、星を大量に獲得したり、ゲームで鮮やかな活躍を見せるたびに、まるで初めて見るかのような態度でどよめき、歓声を上げ、拍手を送っていた。

前に並み居る観客たちの大きな頭が、試合をよく見ようと落ち着きなく動く様を前に、立見席にいる天使は退屈そうに手すりにもたれかかり、頬肘をついていた。

キーパーソン達が競い合う様子を眺めていた彼は、不平たらたらの表情でこうぼやいた。

「どのスタジアムも、きっとコート“自体”が転送装置なんだろうな。で、僕らみたいにスターじゃない人がいくら残って待ち受けようとしても、さっきみたいに、スターの到着と一緒に入れ替えで戻されちゃうってわけか」

変装を解いて再びピカチュウを肩に掴まらせていたレッドは、ピットの言葉を聞いて眉根を寄せ、天使の方を向く。

「それじゃあ……キーパーソンの人たちに会いたくても、スタジアムをねらうのは勝ち目がないってこと?」

「これだけ色々試してもダメだったんだ。今までの経験からすれば、この手は『悪手』ってことなんだと思うよ」

スタジアムの方角に、厳しい視線を向けるピット。しかし、傍らの少年は少し困惑気味であった。

「あくしゅ……?」

「こんなに妨害されるなら、今までの方法で行く限り、僕らはどう頑張ってもあのコートには入れないってこと。これはあくまで僕の勘だけどさ、入れるとしても、何か『正しい手順』があるんだ。キーパーソンに会いたいなら、それを探さなきゃいけない」

そう言って彼方のキーパーソン達を真っ直ぐに見据える天使に、レッドは飲み込みきれないままにこう尋ねる。

「……でも、それはどうやったら見つかるの?」

少しの沈黙を挟み、ピットは幾ばくか声を落としてこう答えた。

「それを考えてるんだ」

 

 

考えられる手を尽くし、これ以上の打開策が浮かばなかった二人は、再び、拠点として使っている『ハズレ』のスタジアムに戻ることにした。

がらんどうのスタジアム内、観客席の外縁に立ち、二人は金網越しに名も無き大都会の夕暮れ時を眺めていた。

やがて遠くから、風に乗って人々の歓声が聞こえてきて、二人はパレードが始まったことを知る。

その時、レッドがふと呟いた。

「……昨日と同じ時間だ」

「え……?」

ピットが聞き返すと、少年は勢い込んで振り向いた。

「ほら、あの通り。見覚えない? 僕らが最初にパレードの行列を見た場所だ。昨日ときっかり同じ時間に始まってる」

静かな興奮で目を輝かせ、レッドは腕時計の文字盤をこちらに見せる。もう片方の手は、パレードのフロート車によってひときわ明るく照らし上げられた一角を指していた。

「そうなの? ごめん、僕、時計は持ってないから……」

それを聞いたレッドは目を瞬き、それからちょっと照れくさそうに笑った。

「……あ、そうだったか」

「まあでも、君が言うなら僕は信じるよ」

とピットは頷きかけ、こう続ける。

「これはもしかしたら、大きな手がかりになるかもしれない。僕らが昨日見たパレードは、このエリアにいるキーパーソン全員が参加してたはず。観光客の人が言ってたことが正しいなら、あのパレードには『スターがみんな勢ぞろいで』出てるんだからね。でも、そのためにはクリアしなきゃいけない課題があるよね」

問いかけられ、レッドは少しの間、夕焼けの空を見上げて考え込んでからこう答える。

「パレードが始まるころに、みんなの手が空いてること?」

「その通り。昨日、案内所のお姉さんは『試合がいつ終わるか分からない』って言ってた。あちこちで『終わり次第』次の試合が行われてるのに、それでも昨日と今日でパレードが始まる時間がそろってたということは、実は全部時間通りに動いてるかもしれないってことだよ。少なくとも、パレードが始まる時刻は決まってて、それに合わせて、ちゃんと全員分の試合を終わらせてるんじゃないかな」

「今日だけの偶然じゃないと良いけど、でもそれなら……」

「そう。試合の時間を読むのは無理でも、パレードならできる。つまり先回りできるかもしれないってこと!」

加えてパレードには、場所のメリットもある。今までの経験からすれば、スタジアムに『一般人』が入り込むことは至難の業。だがパレードの方は、普段は道路として一般人が通行するような場所で行われる。然るべき場所で待っていれば、向こうのほうから来てくれる、というわけだ。

そこまでを頭の中で考えていたレッドだったが、ふと何かが引っかかった。

「始まる前に追い払われちゃったりしないかな?」

「そこがネックなんだよね。パレードは見晴らしのいい道路ばっかり通るから、隠れられる場所はどこにもなさそうだし。僕が考えてたのは、最後に入ってくお城があるでしょ? あそこで待てたらなぁと思ったんだけど」

「問題は、あのお城に僕らが入れるかどうかってことだね」

レッドの言葉に頷きで合意し、それからピットはこう提案する。

「ともかく明日からは、『試合』も含めて一日の流れを僕らで記録してみよう。どこかにまたヒントが隠されてるかもしれないし。それで、パレードの時間が近づいてきたらお城に行ってみようか」

 

 

翌朝から、二人はそれぞれが担当として決めたスタジアムに張り込み、一日の試合の記録をつけ始めた。

ピットは第一試合の入場券でスタジアム内に入り、そのまま観客席に残っていたのだが、全く見咎められることなく居座り続けることができた。昼食はスタジアム内の売店で済ませ、ホットドッグをかじりながらスタジアムのコートを見つめて、各試合ごとに大スクリーンに映し出される選手の名前に目を凝らし、書き留めていった。

彼が張り込んだスタジアムではテニスのダブルスの試合が行われていた。動きやすい格好をしたスターたちが、オリジナルのラケットを手にタッグを組み、陽気に掛け声をかけ合いながらラリーを続け、時には相手の隙をついて強烈なスマッシュを撃ち込み、得点を重ねていく。

心の底から楽しげに試合を続けている様子のキーパーソンを、天使は遠くから眺めていた。彼は日差しを避けるように庇の下に立っており、薄暗さの中、彼は我知らず、浮かない表情をコートに向けていた。

 

やがて夕刻が近づき、二人は最終試合が始まる前にスタジアムを抜け出すと、約束通りに城の前に集まった。

城を望む表門の近く、通りに建てられた小さな時計塔の下で待っていたレッドは、駆け寄ってきたこちらに気が付いて振り向いた。

「ピットくん、お金足りた?」

「うん。いくらか分からないけど、まだ残ってるよ」

そう言ってピットは、肩掛けカバンに手紙と一緒に入れていたお金をレッドに返した。

「良かった。……えぇと、残りは……あと三日くらいは持ちそうかな」

そう言いながら彼は、お金を自分の財布に仕舞う。

その様子を何気なく見ていたピットだったが、一瞬遅れて彼の言葉の意味に気が付くと、慌ててこう尋ねた。

「あと三日って、もしかして君のお金のこと?!」

きょとんと目を瞬き、いくらか気圧されながらも頷いたレッドの両肩を、がしりと掴んでピットは嘆願した。

「それならそうと言ってよぉ! スタジアムに入るのも、お昼ごはんも、僕の方で何とかするから!」

「何とかって、ピットくん、お金はちゃんと払わなきゃだめだよ……?」

困惑の表情でそう言ってから、レッドはこう続けた。

「それに僕も今日気づいたんだ。ここじゃお金が稼げないって」

 

気を取り直して、彼が説明したのは概ねこのようなことだった。

彼の住むカントー地方では、トレーナー同士の勝負に勝つことで賞金を得られるほか、要らなくなった物を売ることでもお金を稼げる。それがすっかり習慣づいていた彼は、今日、試合の合間に街に出て道具をいくらか売って“軍資金”を補充しておこうとしたのだが、怪訝そうな表情と共に返ってきたのはこんな言葉だったという。

『当店では買取は行っておりませんので……』

どの店に行っても取り扱ってもらえず、じゃあ買取をやっている店はどこかにあるのかと尋ねると、そんな店は聞いたこともないと言われてしまった。

 

ここまでを聞いているうちに落ち着いてきたピットは、腕組みをして考え込んだ。

「中古品を買い取る店がないのは変だけど、無いものは仕方ない。別の方法でどうにかしないといけないね……僕らで大道芸でもやってみる?」

冗談のつもりだったが、レッドは真面目に受け取ってしまったらしく、

「それはちょっとな……」

困ったように苦笑いをし、帽子のつばを下げ気味にして視線を逸らした。

 

 

城門はパレードが始まる前から開いており、跳ね橋も降りていた。警備員は未だ到着しておらず、二人は堂々と橋の真ん中を歩いて門をくぐろうとしたのだが、その足は途中で戸惑い、ついにはその場に立ち止まってしまった。

「……君も分かる?」

城門の向こう側を見つめたままピットが問いかけると、レッドは頷いた。

「うん、なんか変だと思ったら……城の中、誰もいないんだ」

彼らが見据える先、そこには全く人けのない庭園が広がっていた。動物の形に刈り揃えられた庭木に、生垣、そして塵一つ落ちていない石畳の道。

大気さえもが停止したように静まり返った夕刻の庭園で、道の左右に備えられた噴水の動きだけが、辛うじて時が動いていることを示していた。

道の向こうには城の正門が、閉ざされた両開きの扉が待ち受けている。だが、そこに居るべき番兵の姿は見えない。

 

二人は揃って後ろを振り返る。

跳ね橋の向こう側、道路では車が行きかい、歩道ではタマゴ頭の観光客達が緩やかな集団を作ってそぞろ歩いていた。そして誰一人として、城に向かってこようとはしなかった。

 

ピットは再び城へと向き直り、意を決して歩き始める。

木製の跳ね橋が舗装された道に、そして庭園へと続く石造りの道に切り替わる手前で立ち止まり、片手を上げた。

軽く手を握り、手甲でノックするように空中を叩く。

ほとんど音は聞こえなかったが、彼の手は見えない壁に当たり、掛けた力と同じくらいの勢いで跳ね返された。

「ここもか……」

彼は悔しげに眉をしかめ、呟く。

落ち込んでいたのも一瞬のうち、きっぱりと気持ちを切り替えて踵を返した。

「作戦変更、引き返そう!」

 

 

パレードが始まる前に場所取りをし、二人はポールで隔てられた最前列に陣取ることができた。そして、ポールが張り巡らされた瞬間に、歩道と道路を隔てるバリアが発生することも確かめられた。

やがて、パレードは今日も定刻通りに始まった。

遠くからじわじわと近づいてきた興奮の波に乗り、角を曲がって大仰な電飾が姿を現す。

ビルディングの窓ガラスに煌びやかな電飾が反射し、周囲でどっと観光客らが盛り上がる中、レッドはすぐさま小さなノートを開き、パレードに参加しているスターの名前を、これまでに把握している範囲で書き留め、名前が分からない者についてはざっと姿を描いていく。ピットはというと、レッドの手持ちポケモンと共に最前列で声を張り上げ、周りの歓声にかき消されそうになりながらもキーパーソンに声をかけ、気づいてもらおうとし続けた。

しかし、彼らは全ての観客に分け隔てなく目を配り、笑顔を見せ、手を振りこそすれども、誰一人としてこちらに気づくことはなかった。そしてフロート車は一台、また一台と城門をくぐって庭園の向こう側に姿を消してしまった。

 

パレードの終わりとともに辺りに詰めかけていた観光客らは、興奮冷めやらぬ様子で語らいながらも一人、また一人とその場を立ち去っていく。

目をすがめてフロート車の行く先を見定めようとしていたピットは、少しかすれてしまった声でこう言った。

「あー、やっぱりそうだ。あれだけの台数、あの庭園の中に入り切るはずがない。車ごとワープしてるんだろうな……」

彼の隣、レッドはノートを見直してから伝える。

「こっちは確認できたよ。少なくともキーパーソンは全員出てる」

「情報通りだね。城門をくぐった時刻も?」

「うん。昨日と全く同じだった。今日は秒も書き留めておいたから、明日また確かめてみようと思う」

「秒数まで揃うか……考えられなくはないっていうのがこのエリアの怖いとこだね」

そう言ったピットの傍ら、レッドはふと城の方角を、キーパーソンが姿を消した先に目をやる。

「……まるで歯車みたいに……あの人たち、今は何を考えてるんだろう。あの人たちに、自由はあるのかな……」

彼は、気遣うように呟いた。

そんな少年を横に、天使は何も言えずにいた。

 

この仕事を始めたばかりの自分なら、迷わずに『そこから助け出すのが僕らの役目さ』と、そう胸を張って言えたことだろう。

けれども今の自分は、手紙を渡した後に起こることを、彼らが返すであろう反応を、ありありと想像できてしまう。

このエリアにいるキーパーソンは日々『試合』に明け暮れ、最後にパレードをこなし、その間一切休む暇もない。だが、疲れたような様子は動きの端にも見せたことがなく、朝から夕方まできびきびと動き、スポーツやショーをこなしていく。ほとんどのキーパーソンはいつだって観客に向けて笑顔を見せ、手を振っていた。他のスターと力を合わせてゲームをこなし、時には競い合って、一つ一つの試合を楽しんでいた。

そんな彼らもきっと、手紙を受け取れば――

 

「ピットくん?」

名前を呼ばれ、天使は我に返った。

「――あ、ごめん、考え事してて……何か言ってた?」

「試合に出てる人を記録するあれさ、入場券買うのもったいないから、ビルの屋上から見るのはどうかなって。そうしたらもうちょっとここで粘れるよ」

「なんだかほんとに長丁場になってきそうだしね……」

金銭面に関しては頼りっぱなしになってしまっているのもあり、ピットはちょっと申し訳なさそうに笑って頷いた。

 

 

 

あくる日、ビルディングの屋上。

打ちっぱなしのコンクリートが広がり、風があたりを吹き抜ける中、仕切りの金網に寄りかかり、髪と翼をそよがせた天使の姿があった。真下のスタジアムを見おろし、目を細めている彼の手には食べかけのサンドイッチが握られている。

「これがあんぱんと牛乳だったらな……」

一人の暇を持て余し、彼はそんなことをぽつりと呟いていた。

それから、女神の合いの手が入ってこないかと淡い期待を抱くように空を見上げるが、耳に馴染んだあの声は聞こえてこなかった。

このところ、女神はひとたび会話を切ってしまうと、天界に帰るまでは一度も語りかけないままになることが多い。少し前までは、女神には女神の仕事があり、エンジェランドにおける『人間を寵愛する者』としての役目があるからと勝手に納得していたが、この頃はその沈黙が、彼の心の内で次第に気掛かりなものへと移り変わりつつあった。

 

風の音にまぎれて、ふと記憶の中の声が蘇る。

『騙されてるだけならまだ良い方だ。もしも女神が操られているんだとしたらどうする?』

自分と限りなく良く似た、それでいてずっと直情的な、真紅の眼差し。

 

あの日のやり取りを思い出した天使は、ふと自信を失ったように表情を曇らせかけ、そこで慌てて首を振って気合いを入れ直す。

――もしそうなら、僕が気づかないはずはない。それに、イカロス達からも別に異変の報せは届いてないし、恵みの光はちゃんと地上に行き渡ってるはず……

その時だった。頭上が陰り、空を見上げると、翼をはためかせて橙色の竜が降りてくるところだった。

竜の背から赤い帽子の少年も顔を見せ、こちらを見おろす。

「迎えに来たよ!」

「あれ、もうそんな時間?」

ピットの呼びかけに、着地したリザードンの背からぽんと飛び降りてやってきたレッドはこう答えた。

「まだパレードには早いはずなんだけど、今日はなんだか様子が違うんだよ」

その言葉に、思わずピットは寄りかかっていたところから腰を浮かす。

「えっ、本当?」

「ここからも見えるかな……ほら、あれ!」

彼が指したのは、ピットが見張っていたスタジアムとは異なる方角。何か大きなものがビル街の間を動いていく。よく目を凝らすと、それがクレーン車に吊られた鉄骨であることが分かってきた。何台ものクレーン車が動員されているらしく、蜘蛛の脚にも似た鋼鉄の腕があちらこちらで動いており、見る間にコンクリートジャングルの谷間に鉄骨を張り巡らせていく。

「あれって……いつもならパレードが通る道だよね? もしかして……」

「今日はパレードとは違うイベントが始まるのかも」

期待で静かに目を輝かせるレッドに、ピットは大きく頷きかけた。

「よし、行ってみよう!」

 

 

リザードンの背に乗り、現場にたどり着くまでの間、二人は張り込みの成果を報告しあった。

結局昨日と一致したのは、第一試合の始まる時間だけであり、各試合の終了時刻と第一試合以降の開始時刻は、同じスタジアムの同じ種目であったとしても、昨日と今日で揃うことはなかった。そして登場するスターにも法則性は無く、案内所で言われたように『手の空いた人が』臨機応変に次の試合にあてがわれている様子だった。

 

このエリアで起こるイベントには本当に『予定表』が存在しないことを思い知らされ、ピットは額に手を当てて空を見上げ、嘆息した。

「よほどスケジュール管理する人がうまいんだろうなぁ……」

「一人じゃないね。きっとどこかのビルが丸々一つ、試合とパレードを取り仕切る人達で埋まってるんだ」

これに対して天使はにやりと笑い、冗談めかしてこう返す。

「いや、ひょっとしたらこの街全部、そうかもしれないよ?」

「まさかそんな! ……でも、ほんとだとしても驚かないかも……」

レッドは、眼下で流れゆくビルディングの四角い頭を眺め、こう続ける。

「考えてみたら変だよね。このエリアに出歩いているのは、スターって人を除けば観光客とスタッフ、後は警備員や警察しかいない。でもそれだけなら、こんなに背の高い建物は幾つも要らないはずだ。泊まれる建物やお店が入ってるのは数えるくらいしかないし、後の建物は何のためにあるんだろう?」

彼の問いかけに、ピットは即座にこう応えた。

「僕は、“中身のない張りぼて”に一票」

「張りぼて? この街のほとんどが……?」

「だってこのエリアの建物は十中八九か七くらい、いつ見たってずっと鍵閉まってるし、中を歩いてる人の姿もないからね」

「そうなんだ……! ピットくんってよく見てるよね」

「まあ、この配達を始めて結構経つからね」

そう笑ってから、彼も眼下の大都会を見おろしてこう言った。

「君たちをエリアに閉じ込めたのが誰なのかは分からないけどさ、きっとその黒幕は、多少詰めの甘いところはあったとしても、気の遠くなるくらいの時間をかけてまで箱庭を作りこむ、相当な偏執狂だと思ってるよ」

「偏執狂、凝り性ってことかな? それは言えてるかも。この街と仕組みを作るのに、一体どれだけ掛かったんだろうなぁ」

そう会話している二人を乗せて、リザードンは翼をゆったりと大きく羽ばたかせて緩くカーブを切り始めた。風向きが変わり、少し高度が下がって、鉄骨の渡され始めた大通りの様子がはっきりと見えるようになる。

白銀色の鉄骨は、おおむねビルの側面を補強するように張り巡らされながら大通りを突っ切っている。時々直角にカーブし、通りを横断するように渡されたものもあるが、どれも上下の二本の梁があることくらいしか共通点は見つからず、例えば旗や横断幕など、これから始まるのが何なのかを示すようなものは一切見当たらない。

小手をかざして地上を眺めていたピットは、しばらく観察してから首を傾げた。

「ただの工事でしたってわけじゃないんだよね……?」

「どうかなぁ。工事だとしても、こんなにあっちこっちに架けないと思う」

こういった人工物を見慣れているのか、レッドはさほど迷わずにそう言った。

「観光客もまだ普通に歩いてるもんね……。通行止めの看板も見当たらないし」

「降りて聞いてみる? 何が始まるんですかって」

「詳しい話は出てこないんじゃないかなぁ、例によって例のごとく。きっと分かるとしても、イベントの名前くらいだと思うよ」

「それもそうだね」

そう答えたレッドの視界に、ちらと赤いものがよぎり、彼は何気なくそちらを見やった。

彼らの進行方向、地上に張り巡らされた白銀のアスレチックは城の表門の前で終わっていた。そして、そのゴールには仮設ステージが出来上がりつつあった。舞台には高級感のある深紅の布が張られており、地上のスタッフがスポットライトの動作確認をするたびに、その中央には明るい赤色の円が浮かび上がった。まるで、そこに立つべき人を待ち受けるかのように。

「一体、何が始まるんだろう……? コンサート? それとも何か演説でもやるのかな……」

眉間にしわを寄せて考え込んでいたレッドの後ろ、ピットがはっと表情を改める。

「――レッドくん、降りて!」

「どうしたの?」

それに対し、天使は地上を指さして短く言う。

「場所取りが始まってる。僕らも早く行かなきゃ!」

彼の指し示す先、観光客らのつやつやした頭が、いつの間にか一つの目的をもって動き始めていた。

頭でっかちの人々が歩道のそこここで集まり、車道を向いて一か所に留まりはじめ、その列が次第に分厚くなっていく。

 

 

夕刻。すでに日は沈んでいたが、地平線に残された光が、空を不思議な明るさの青色に染め上げていた。

柔らかな残光がビルディングの壁面を照らす様を前に、天使は若干手持ち無沙汰な様子で持ち場を守り、立ち続けている。

やがて、まだほんのりと緩さを保っているタマゴ頭達の列をなんとかかき分け、聞き込みを終えたレッドが戻ってきた。

「“伝統のフェスティバル”なんだって」

彼は開口一番そう言った。

「それって?」

ピットが尋ねると、レッドは残念そうに首を横に振り、こう答える。

「なんだか音楽が賑やかだとか、飛んだり跳ねたりとか……そういう話は出てくるんだけど、どういうものなのかは全然。スターの誰かが出るらしいけど、それが誰かっていうのも、相変わらず分からなかったよ。あとはなんとなく、元々ここの街の行事じゃないって雰囲気があったかな……」

「まあ想定の範囲内だね……でも、調べてくれてありがとう」

笑顔を返し、それから彼は通りの方に再び顔を向ける。

周りの観光客が期待と興奮を隠しきれない様子で賑やかに語らい、その声がビルディングの峡谷にこだましていた。

そんなざわめきの中、しばし黙って考え込んでから、彼はこうつぶやいた。

「うーん。音楽に飛んだり跳ねたりか……ノリノリのライブでもやるのかな」

「もしライブだとしたら、もう少し前の方に行った方がよかった?」

と、レッドは通りの終着点、城の前に設置されたステージの方角を指さす。

しかし、彼に対してピットはさほど迷わずにこう答えた。

「大丈夫じゃないかな。そのフェスティバルはきっと、ライブがメインじゃないよ。だってステージからこんなに離れたこの場所にも、パレードの時みたいに人垣ができてるんだから。きっとここでも“何か”が始まるんだよ」

その時、レッドの肩に掴まっているピカチュウの片耳がぴくっと動いた。

彼は宙を見上げ、不思議そうな顔をして鳴く。

「何か聞こえたの?」

気づいたレッドが問いかけると、ピカチュウは通りの右側を、ステージがある方角とは反対側をじっと見つめた。

 

少年と天使が揃って同じ方向を見つめていると、やがて遠くから風に乗って、豪勢で華やかなジャズの音色が聞こえてきた。空を突き抜けて高らかに響くトランペット、足元から重厚に震わせるようなバリトンサックス、その間を軽やかにソロで踊るのはピアノの音色。そこに人々の声援や歓声、驚嘆の声が交じりながら、音楽はこだまを伴って通りを移動し、徐々に一体となり、大きく力強くなっていく。

淡く紫色に染め上げられた夕暮れ時の空の下、影の中に黒く沈んだビルディングの足元からは幾筋ものスポットライトが灯り始め、何か特別なものが少しずつ、着実に近づきつつあることを示していた。

二人は周りの観光客と一緒になってすっかりフェスティバルの陽気に包まれ、静かな興奮と期待に満ちた目を向けていた。

 

今か今かと待ち受けていた二人の周りで、目には見えない兆しが高まっていき、やがてそれは唐突に訪れた。

 

ビッグバンドジャズの音色が一つの盛り上がりに差し掛かり、燦然と輝くようなファンファーレが通りを駆け抜ける。

それと同時に、彼方の、通りを突っ切るように渡された二本の鉄骨の間に白い照明が弾け、そこに一枚の絵が映し出された。

いや、それは絵ではなく、映像だった。二人が見る間にも、鉄骨の間に長々と映し出された風景画では、細長い赤紫色の板が上下左右に動き続け、空中に浮かぶコインがきらめいていた。

一体何が始まるのかと、思わずどちらもがその映像に気を取られていた時だった。

光のドットで描かれた風景の『中』に、左端から何かが走ってきた。赤い帽子に紺のオーバーオール。粗いドット絵の人物は、時に鮮やかに、時に危なっかしく、障害物を避けたり不安定な足場を走り抜けたり、途切れ途切れの道をタイミングよく跳んで突き進んでいく。

二人が半ばあっけに取られてその快進撃を見守るうち、口ひげを持つその人物はあっという間に映像の右端に辿り着くと、鉄骨の折れ曲がる方向に従って90度進行方向を変え、ビルの壁面に沿って架けられた絵の中を通り抜けていった。

絵に角度がついてしまい、二人は身を乗り出して、こちらの通りの壁面に目を凝らしていた。辛うじて絵の中の人物がこちらに近づいてきているのは分かるものの、あるところでその姿が不意に急降下し、二人は相手を完全に見失ってしまった。

「あれっ、消えた?」

「あ、見て! あれ!」

急いで指さされた先、なんといつの間にか、絵の中にいたはずの人物が実体を備えて大路を走ってくる。

周りの観光客らはすでにそれに気が付き、その方角に手を振り、歓声を送り、興奮して跳びはねていた。彼らの声援に応えるように、赤いキャップを被った男は陽気な笑顔を見せ、白い手袋をはめた手を振り返す。

彼の姿が目の前に差し掛かった時、ピットは通りの向こうとこちらの間に不可視の障壁があることも忘れて身を乗り出し、懸命に呼びかけた。けれどもヒゲの男は特別立ち止まるような素振りも、それどころか最前列にいるはずのこちらを気に留めることもなく、皆に分け隔てなく明るい笑顔を振りまいてそのまま通り過ぎてしまった。

その様子を見ていたレッドは、少しして落胆と悔しさとが入り混じった表情で帽子のつばを下げる。

「だめだ……やっぱり見えてないんだ」

「いや、まだ諦めるわけには――」

陽気な男が駆け抜けていった方向をまだ目で追っていたピットは、何かに気づいてはっと息をのみ、次の瞬間、観客をがむしゃらにかき分けて走り始めた。

一瞬遅れてレッドが気づいたときには、もうすでに彼の後ろ姿は数列分の人波を隔てた向こう側に消えかかっていた。

「ピットくん――?!」

それを目にした時、思わずレッドは我が目を疑ってしまった。

白い翼を備えた背中が、あるところで観客の波の向こう側に、『お客様』は入ることができないはずの場所に抜け出たのだ。

唖然としてただ眺めることしかできなかった彼の肩で、ピカチュウの方が一足先に立ち直る。一声鳴くと、トレーナーの指示も待たずに跳びだしていった。“でんこうせっか”で観客たちの頭の上を跳び越えていき、彼の姿もまた、スターしか立ち入ることのできないはずの領域に踏み込んでいく。

見る前で起こった不可能に目を瞬いていたレッドは、やがてはたと我に返り、慌てて自分も観客の波に割り込んでいった。

「――ちょっと、すいません……! 通してください!」

狭い隙間に身を割り込ませ、フェスティバルに熱狂して腕を振り回し、声援を送り続ける人々の波に押し返されそうになりながらもようやくのことで抜け出した先、レッドは自分の足が広々とした空間を踏んでいることに気が付く。

「あれ――」

左右を見渡すも、そこにあるはずのポールとロープは見当たらない。

「もしかして……」

そう言って右へと首を巡らせた先、車道と歩道の境界にはロープが渡されている。それを見ていた少年の目に、少しずつ理解が追いついた。

おそらくあのロープは、そして見えないバリアは、どういう理由かは分からないが歩道を遮ることができないのだ。車道を走ってきたスターが再びコースを曲がって『映像』に戻っていく時には、歩道を突っ切ることになる。その短い区間にはバリアが存在しない。

そこまで思い至ったとき、レッドはその目に少なからずの訝しさを見せて後ろの観客たちを振り返っていた。

見えない境界をわきまえて、一歩たりともスターの領域を侵そうとしない観客たち。

――スターがすぐ目の前を走っていったのに、誰も駆け寄ったり、手を伸ばして握手しようともしなかったなんて……

彼の眼差しに全く気づかず、観光客は皆、彼方のどこかに目を向けて絶え間なく手を振り、跳びはね、歓声を上げ続けていた。

彼らの様を見ているうちに現状を思い出し、

「……そうだ、ピットくんは――?」

レッドは急いで左を、天使が駆けていき、姿を消していった方角を向く。

歩道から唐突に伸びあがる二本の鉄骨と、その間に映し出された映像。画面の表面から通りに向かって突き出ていたのは、鮮やかな緑色をした大きな円筒。映像の側にも、同じような色をした円筒が表示されている。

映像の外と中に渡された“土管”、そして映像を抜け出してきたかのように、唐突に通りに出現したキーパーソン。それが意味するところに思い至り、レッドは咄嗟に駆け出した。だがしかし、ほんのわずかに及ばず、彼の見つめる前で鉄骨の間の映像がふっとかき消えたかと思うと、緑の土管も忽然と消滅してしまった。

やがて、周囲の観光客らがもっと眺めの良い場所を求めて歩き始めた。友人と仲間を案じ、その場に立ち尽くして彼方の映像に目を凝らす少年に、人々はまるで関心を向けることもなく横を通り過ぎていった。

 

 

人一人分の幅しかない赤紫色の鉄骨を駆け抜け、天使は真っ直ぐに前を向いてひた走る。彼が懸命に見つめる遠くには、鉄骨で作られたアスレチックを軽快に跳びはね、次々と障害物を乗り越えていくオーバーオールの背中があった。不思議なことに、映像の中から見ると彼の姿はあの粗いドットではなく、普通の姿になっていた。

呼べど叫べど、彼は振り返らなかった。街に響くビッグバンドジャズの音色は、この『映像』の中にまで鳴り響いていたのだ。

これでは、とにもかくにも追いつかなければ始まらない。ピットはひたすらに走り、跳び、キーパーソンの背中を追い続けていた。だが、向こうが明らかに慣れた様子で、次にどんな障害物がやってくるのかも全て見通したかのような鮮やかさで駆け抜けていくのに対し、何もかもが初見のこちらはあまりにもハンデが大きかった。

「――あっ……と!」

視野の下に違和感を感じた次の瞬間、遅れて背筋に冷たいものが走る中、彼は思わずたたらを踏んで立ち止まる。

彼の見る先、足場はいきなり途切れていた。

底なしの谷ではないものの、肝を冷やすに足る高さを隔てて下の足場が見えている。これまでも何度かうっかり落ちてしまい、登るのに苦労させられた高さだ。

 

少し心が落ち着いてきて視線を前に向けると、やや離れたところに立方体のブロックで作られた道が浮かんでいるのが見えてきた。その橋もご丁寧に途切れ途切れになっており、簡単に駆け抜けられるようにはなっていないのが分かった。

「この距離を連続ジャンプしろって……?」

げんなりした顔でそう呟くが、あまりえり好みはしていられないのも事実だった。彼は来た道を何歩か戻り、助走をつけると思い切り跳躍した。伸ばした足が向こう岸を踏み、勢いを殺さないように身体を前に倒して次の足を素早く踏み出し、そうしてブロックの橋を飛び移り、前へ前へと進んでいった。

徐々にリズムに慣れてきた彼の頭に、ふとこんな考えが浮かぶ。

少しでもこの足場を横にそれれば、『映像』からはみ出てしまうのだろうか。

そう思った時、見なくていいのにと頭の片隅で思いながらも、つい、彼は足元の景色に目をやってしまう。

「いぃ……」

たちまち手足の先から血の気が引き、思わず歯を食いしばる。

ぼんやりと白く明るい半透明の壁を隔ててその向こうに広がっていたのは、はるかなる深さを持つコンクリートの峡谷地帯。明るく照らし上げられた通りが頼りないほどに細く、観客の姿もミニチュアのように小さくなってしまっていた。

いつの間にこんな高さにまで登ってしまったのだろうか。

凍り付いていたのも一瞬のうち、はっと我に帰ると、彼は視線を無理やり引きはがすようにして顔を前に向け、鉄骨の道に全神経を集中させる。

前を走っていたはずのキーパーソンは、再び姿を消していた。きっとまた、土管を通って先に進んでしまったのだろう。

焦りは禁物。彼は自分にそう言い聞かせる。何日も粘ってようやく彼らと同じ空間に立てたのだから、ここでつまらないミスをして、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

このフェスティバルは演者に、かなりレベルの高いアドリブを求めているようだった。

緑の土管を潜り抜けるたびにピットの前には新たな障害物が立ちはだかり、コースは緩急をつけながらも徐々に複雑に、臨機応変の対応を迫るようになっていく。

また一つの映像を抜け、新たな映像に踏み込んだピットは、左右の視界に違和感を感じて思わず立ち止まる。

「どうなってるの……?」

きょろきょろとせわしなく見渡す彼の左右には、底なしの奈落に向けてぶら下がる鍾乳石のような建物群が、横腹に照明をきらめかせて地平線の果てまで広がっていた。

『足元』の夜空に吸い込まれそうな錯覚を覚え、つい腰を低くして歩いていった彼の足元で、足場が急に動き出した。

慌てて手を振り回し、バランスを取ろうとする。身体で感じる重力と視覚の不一致に思考が引っ張られてしまった形だ。

混乱する頭をどうにかまとめようと歯を食いしばり、目を細めている彼の見る先、こちらの足場と対になるようにして動き、あるタイミングで接岸する足場があった。

最接近する瞬間を狙って歩いて渡るか、そうでなくともある程度近づいたところでジャンプすれば良い。だが、ステージが進んだことでコースの難易度も上がっていた。

じりじりと前進した天使の足元から熱風が吹き上がり、前髪をじわりと逆撫でする。足場を焦がし、陽炎を揺らめかせるそれは、ドラム缶の隊列に灯された炎だ。

彼の身に施された奇跡の力があれば火傷はしないはずだが、それでも熱いものは熱いし、痛いものは痛い。

――今までと一緒だ。ただタイミングを見計らって、跳ぶだけ……!

そう自分に言い聞かせるピット。だが彼の意志に反し、足はなかなか前に進もうとしない。

一度立ち止まってしまったのが災いし、一歩でも踏み外せば『底無しの夜空』に落ちてしまうという本能的な恐れが、彼の全身を縛り付けてしまっていた。

絶好のタイミングがやってきては無下に過ぎ去っていき、何度目かに足場が遠ざかったときだった。彼は無理やりにでも心を決め、じりじりと後ろに後退した。

気合の声を上げて助走をつけ、近づいてきた足場に飛び乗った。そのまま、ほとんど勢いに乗って向こう側へ渡っていく。なんとか難所を乗り越え、鉄骨の坂道を駆けのぼり、道の切れ目や吹き上がる炎をほとんど見ないままに跳び越えて、終点に見えてきた緑の土管の中に転げ込んだ。

 

難所を乗り越え、こらえていた息をつき、顔を上げたピットはそこに待ち受けていたものを見てぎょっと目を見開いた。

登り坂の上から次々と転がり落ちて来るのは、人の背丈ほどもあろうかという巨大な樽。

一見木製に見える樽を前に、天使の足がすくんでいた。それもそのはず、この樽、神弓の矢数本程度ではびくともせず、中に一体何が詰まっているのか、下手にぶつかればこちらが弾き飛ばされてしまう。これまでのコースにも出現していた障害物ではあるのだが、今までは頭上からただ直線状に落っこちて消えていくだけだった。それがこのステージでは、自分が走るべき順路に我が物顔でのさばり、ゴロゴロと音を立てて転がってくるのだった。

引き返すこともできず、凍り付いている天使の見る前で、樽はこちらの足場の下までたどり着くと、そこですとんと落ちて消えてしまった。

それに気が付き、少し心が落ち着いた彼は行く手に目を凝らした。キーパーソンの背中はいまだに見えなかったが、頭上のどこかで、樽の転がる音に混じって靴底が鉄骨を叩く軽快な音が聞こえていた。そのリズムにはほとんど淀みがない。おそらく彼は、あの樽の隊列を難なく跳び越えて進んでいるのだろう。

「あの高さ……僕で跳べるかな」

少し自信なさげに眉をひそめながらも、ともかく試してみようと坂道に降り立つ。だが、助走をつけかけたところで彼の足はためらい、すくんでしまった。タイミングを失ってしまった天使目掛けて、巨大な樽は容赦なく距離を詰めていく。

「や、やっぱムリ! タイム!」

踵を返して上の足場に戻ろうとしたときだった。彼の頭上を、何か素早いものが通り抜けた。

つられて後ろを振り返ったピットが見たのは、茶色い縞模様のついた黄色の背中。

鉄骨に着地したピカチュウは四肢を踏ん張り、尻尾をぴんと立てる。

「ピィ~カッ!」

気合と共に放たれた電撃が宙を駆け、青白い閃光と共に樽を打ち砕いた。

「ピカチュウ! 追いかけて来てくれたの?」

喜びと安堵の入り混じった声を掛けると、黄色いポケモンはこちらを振り返り、やる気に満ちた鳴き声を返した。

「ピッカチュウ!」

その笑顔はどことなく得意げでもあった。

 

切れ間なく転がり落ちてくる樽の隊列。鉄骨に木材のぶつかる音が幾重にも重なり、ステージ中に反響する中、天使は走る足を全く止めないまま片腕に神器“豪腕”を呼び出した。

ここぞというタイミングを見計らって立ち止まり、腰を低く落とすと豪腕を構え、気合一声、小気味の良い音と共に樽が高々と吹き飛ばされ、上の鉄骨に当たって砕け散る。

腕を振り上げた彼の前に、早くも次の樽が迫っていたが、すぐには動けない様子の天使に代わって後ろからピカチュウが駆け出ていく。跳躍し、宙で力をためるように身を丸めたかと思うとその頬に光が灯り、樽を目掛けて黄色の電撃が撃ち出された。ひとたまりもなく、樽は黒焦げの破片となって四散した。

タッグを組んだ天使と電気ねずみ。ふたりは息を合わせ、交互に障害物を迎え撃ちながら鉄骨の上を渡っていく。

切り返しの坂道を飛び移って上へ上へ、登るごとにふたりの走る速度は上がっていき、ほとんど足を止めずに樽を壊して進めるようになっていく。その様子は、ここまでの遅れを一気に取り戻そうというようにも見えた。

最後の坂道に飛び乗ったときだった。これまで前から転がってきていた樽がふつりと途切れ、遅れてそれに気づいたふたりは道の先に目を凝らす。

鉄骨の終着点、ブロックで作られた土台からドット絵のゴリラらしき物体が落ちていく中、代わってそこに飛び乗っていく人影があった。

赤い帽子に紺色のオーバーオール。彼は今にも、天井の土管目掛けてジャンプしようとしていた。

ピカチュウと共に全速力で鉄骨の道を駆けあがり、ピットは胸いっぱいに息を吸うと、声を張り上げて彼の名を呼ぶ。

「マリオ!」

一心に見つめる向こう側、片手を振り上げて跳躍していく彼の肩がふと気づき、顔がわずかにこちらを向きかける。しかし一歩及ばず、そこで彼の姿は吸い込まれるようにして土管の向こう側に消えてしまった。

その土管も天井の鉄骨に引っ込んで消えてしまい、間に合わなかった天使は惰性で数歩歩き、ついに立ち止まってしまう。

両ひざに手をついて肩で息をつき、上がってしまった息を整えようとしていた彼の周囲で、不意にふっと辺りが暗くなった。

「――え?」

傍らに戻ってきたピカチュウとともに辺りを見渡していたその時だった。

忽然と、足元の鉄骨が消失する。

全身が沈むとともに、背筋を這い登る寒気を感じる。一瞬にも満たない時間のうち、視界のすぐ左にビルディングの屋上が映り、彼は歯を食いしばって豪腕を呼び出すと、空いた方の手でピカチュウの胴を抱えこんだ。

 

 

レッドカーペットが敷き詰められた特設ステージ。すっかり日も暮れて、星空を背景に黒く佇む城を背に、落ち着いた深紅色のスーツで揃えたバンドメンバーがそれぞれの楽器を演奏し、前に立つシンガーの歌声を引き立てていた。

つばの広い茜色の帽子を被り、光沢のあるスレンダーなドレスに身を包んだ黒髪の女性。スタンドマイクに片手を添えてわずかに自分の方へと傾け、まるで共に踊るようにして揺らし、歌い続ける。大人の落ち着きと華やかさを兼ね備えた彼女の声はビッグバンドの音色に乗り、通りに備え付けられたスピーカーから街中に響き渡っていた。

そんな彼女の元へ、ステージに至る真正面の階段を駆け上り、赤い帽子の男がやってくる。気もそぞろな様子で背後を振り返りつつ隣に立った彼に、歌い手は間奏部分に入ったところでマイクを離し、小声で問いかける。

「マリオさん、何か気になることでも……?」

「ああ、うん……名前を呼ばれた気がしたんだ。ここに来る途中で……」

音楽に合わせ、ステージの前の観客と同様に横ノリで踊りながらも、彼は気がかりな様子ですぐ近くのビルディングを見上げた。

そこに架けられたひときわ大きな鉄骨の枠組みは、終点の一つ手前にある恒例の舞台。マリオがゴールにたどり着いたことによって映像はすでに消えてしまい、そこを追いかけてきたはずの何者かの姿も、もうどこにも見えなくなってしまっていた。

 

 

 

交番の扉が開き、外で待っていた少年ははっと顔を上げてそちらに駆けよる。

ピットはその腕にピカチュウを抱っこし、どことなく釈然としない表情で歩いてきた。

「大丈夫だった?」

尋ねたレッドに、天使はその顔のままで頷いてみせる。

「大したお咎めもなし。イベントに飛び入り参加して、スターを捕まえようとしたのにね」

それから彼は背後を振り返り、見送るように出てきていた警官と、スタッフの腕章をつけた人々にこう尋ねかける。

「まさか君たち、『お客様は神様です』って言い聞かされてるわけじゃないよね」

コピーペーストでもしたかのように同じような笑顔を見せ、彼らのうちの一人はこう答えた。

「我々はあくまでこの街を、お客様同士の交流の場を整えるのが仕事ですから」

「仕事熱心だねぇ。あとは君たちの言う交流の場に、スターを入れてくれさえすれば良いんだけど」

ピットはため息交じりに言ったが、この皮肉は全く相手に通じなかった。

 

 

 

すっかり暗くなってしまった空の下、コンクリートとガラスの尖塔は皆、煌々と灯りをともしていた。

街灯の灯る道を歩き、彼らが拠点とする空きスタジアムに戻る帰り道で、ピットはこう切り出した。

「試合に参加させてもらうんだ。そうすればキーパーソンと直接話せる」

ピカチュウを再び肩に掴まらせたレッドは、きょとんと目を瞬いて振り向く。

「そんなことできるの……? 今までスタジアムのどこにも、参加者用の受付なんてなかったと思うんだけど」

「どこかにきっと、必ず手はあるよ。今日だってイベントに潜り込むことができたんだ。……それにしても惜しかったなぁ、あともうちょっとで追いつけたんだけど」

答えが返ってこないことに気づいてふと見ると、レッドは少し驚いた顔をして固まっていた。

どうしたのかと聞いてみると、彼はこう言った。

「君って……なんていうか、勇気あるよね」

ピットはこれに、にやりといたずらっぽく笑ってこう返した。

「あ。それってさ、もしかして“危なっかしい”って言いたい?」

「いや、そういうわけじゃないよ……!」

慌てて手を振っていた彼は、ややあってふと目を伏せる。

「だけど、見てたらこっちの方が怖くなっちゃってさ。君や『女神さま』が僕らを助けようと思ってくれてるのはうれしいけど……あんまり無茶はしないでほしいな」

思わぬ反応に、今度はピットの方が言葉を見失ってしまった。降りかかる困難にその身一つで飛び込んでいき、突破口を切り開く。それは親衛隊の隊長を背負って立つ彼にとってみれば当たり前のことであった。

自分が咄嗟に取った行動でまさかここまで心配されるとは思っておらず、軽く冗談で流すべきか、真正面から受け止めて大丈夫だと胸を張るべきか、迷っていた時だった。

レッドの肩に掴まっていたピカチュウがはっと何かに気づき、一点を凝視して一声鳴いた。それだけでなく、妙に切羽詰まった様子でレッドの肩を小さな手でたたくので、二人は訝しげにそちらの方を見やる。

そこにあったのは、名も無き大都会の中心部にそびえたつ『城』。会話に集中していた彼らは知らぬ間に、その横を通り過ぎようとしていた。

月明かりに照らされて青くぼんやりと照らし出された輪郭の一点に、動くものがあった。

緩くカールしたブロンドの長髪にティアラを載せ、空を見つめるドレス姿の女性。彼女は一人バルコニーに立ち、月を見上げているようだった。

「あれは……」

桃色のドレスに明るい金色の髪。キーパーソンの一人に間違いない。天使はいつしか自分の内にある既視感を肯定し、真正面から見据えられるようになっていた。

「もしかして、あの人は城に住んでるのかな」

そう言ったレッドに、ピットは頷きを返した。

「そうかも。でも、あの様子だと他のキーパーソンはいなさそうだね」

ここからでは遠すぎて表情は分からないものの、他に何者もいないバルコニーで孤独に立ち尽くす彼女の姿は、どこか寂しげな気配を漂わせていた。

城はすでに跳ね橋を引き上げており、ここから声を掛けたところで彼方のバルコニーに届くとも思えない。それでも策を求めてじっと城を見上げている天使に、レッドが尋ねかけた。

「行ってみる?」

「いや。きっと――」

その先を言わぬまま、彼はすっと神弓を構えて矢をつがえ、城壁を目掛けて撃つ。

青い輝線はやはり、空中のどこかで遮られ、ふつりと途絶えてしまった。

それを認めてもなお、ピットは弓を構えた手を下ろそうとしなかった。見えない壁に神弓をぴたりと据え、その綻びを探し出そうというかのように真剣な表情で、じっと城を見つめていた。

 

 

 

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最終更新:2022-06-11

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